コンテンツ制作を次のレベルへ
さまざまなトレンドやチャレンジに参加し、その動画を投稿できるプラットフォームTikTok。自分のアカウントを持っていなくとも、友人から送られてきたり、いつも見ているSNSでたまたま流れてきた動画を目にしたことがあるかもしれない。それは、イマジネーションを思う存分広げ、誰もが表舞台の主役になれる場所であり、それが収入源になる人さえいる。
10年前、TikTokのコンテンツ制作にコンポジットや機械学習が使われるようになるとは、おそらく想像もしていなかっただろう。Curt Skeltonは、TikTokの動画をさらにレベルアップさせた人物の1人だ。VFXやNuke Studioに対して強い想いを持つCurtのクリエイティブなプロセスについて、詳しく話を聞いた。
VFXに夢中だというCurtは、「子供の頃はFreddie Wongや Captain Disillusion、Corridor DigitalのYouTubeチャンネルがお気に入りで、それらを見て育ちました」と話す。
VFX以外では、My Chemical Romance (MCR)を聴くのが大好きで、彼らにインスピレーションを与えたアートの中に身を置く。もし、彼らのミュージックビデオを手がけるチャンスがあったら、「Na na na」を選ぶという。「コンポジットが生々しく、完璧です。アセットパックの爆発、スクリーンを常に飛び交うレーザー、そして最高に間抜けなフリーズフレーム。今思えば、あのMVのおかげで、今こうしてエディターをしているのだと思います」と話すCurt。
彼自身とその作品について、詳しく見てみよう。
Q: コンテンツクリエイターとして、仕事に集中するうえで役立っていること、ルーティンはありますか。
A: いつの日か健康的な仕事のルーティンができることを願うばかりなのですが、今のところ、太陽が出ている時は何もできません。うまくできたエフェクトは、なぜか決まって午前3時に作っています。それでも、日中働かざるを得ないときは、レッドブルと「Stuff You Should Know」というポッドキャストに助けられて、長時間の作業を乗り切ることができています。
Q: アイデアを明確にするために役立っていることはありますか。
A: とにかく音楽を聴きまくります。ほとんどの動画を後ろから作っていくので、何週間もオチを考えていることもあるのですが、ぴったりの曲が流れてくると、動画の全体像が一気に頭に浮かんでくるのですよ。
Q: アーティストとして注目を浴びることで受ける批判や、ネガティブな反応にどう対応していますか。
A: 自分の作品に対する建設的な批判についてはいつも感謝しています。だからこそ、VFXフォーラムに作品を投稿するのが好きなのです。匿名の見知らぬ人からの意地悪で悪意あるコメントは、いい気はしませんね。以前は無視するようにしていたのですが、コメント欄をスクロールするたびに、気になってしまって。だから、削除するようにしたら気分が良くなりました。皆さんにもおすすめします。
Q: Nukeを使い始めたきっかけは何ですか。チュートリアルは利用されましたか、それとも直接ソフトウェアを使用したのでしょうか。
A: After Effectsを独学したときは、間違いが習慣化してしまったものがたくさんありました。そのため、Nukeについては正しいやり方で身につけようと思っています。業界のプロによるチュートリアルをたくさん見ていますし、デジタルコンポジットの本も買いましたから、今回は大丈夫です。
Q: 機械学習をワークフローにどのように取り入れていますか。
A: いつもロトスコープのような退屈で面倒な作業から始めるので、CopyCatのような機械学習のおかげで、思う存分クリエイティビティが発揮できる作業にすぐに取り掛かれるのは、とても有り難いです。
Q: ワークフローはプロジェクトごとに変わるのですか、それとも時間とともに変化してきたのでしょうか。
A: 私のワークフローは、経験とともに確実に進化しています。以前は単純にフレーム順に作業を進めていましたが、今はrawファイルを前後から精査してから作業計画を練っています。後々の作業が大変にならないように、時間をかけるべきことについても学びました。モーショントラッキングなどはその最たる例です。以前は、コンポジットに早く取りかかりたいあまりに、何も考えずに頭から手をつけていたのですから、今考えれば信じられないことです。
Q: Nukeはビデオ制作にどのように役立っていますか。
A: Nukeの恩恵をもっとも感じるのは、間違いなく、代替案を素早く試せることです。レイヤーベースのソフトで何か新しいことを試す場合、プロジェクトファイルを複製して前回試したものを手動で削除するといった単純なやり方がベストで、ノードのようにバックアップして別のパスを試すようなことはできませんでした。
たとえば、Black Paradeのビデオでは、ブルー/グリーンスクリーンショットがずさんで、IBKとKeylightで何度も試行錯誤を繰り返し、ベストなキーイングができるまで非常に苦労しました。Nukeの機械学習ツールで同じことをするのであれば、Background MattingとMODNetを試してみて、どちらかを使っていたと思います。複数のツールを試したうえでベストな方法を選べるのが、Nukeの良いところです。
Q: 本作品のインスピレーションは何から得たのでしょうか。
A: TikTokでは、登場人物が危うく死を免れたように見せかけて、あとで、実際には死んでいたことをコメディタッチで明らかにするというのがよくあるのですが、私はこれをMy Chemical Romance(MCR)風にアレンジしてみようと考えました。彼らのもっとも象徴的なミュージックビデオ『Welcome to the Black Parade』には死を受け入れるキャラクターが登場するので、それをオチのベースにしようと思いました。
最初は、オリジナルのミュージックビデオの画像を使って、できるだけ正確に再現しようとしましたが、すぐにそれでは面白くないと思いました。もっとクリエイティブなものにしたくて、ミュージックビデオ用に作られたGerard Wayのオリジナルのコンセプトアートを見つけたのです。鮮烈な爆発や巨大なアンプ、行進する骸骨の集団などが描写されていて、そこからインスピレーションを得ました。
Q: 本作品のワークフローについて教えてください。
A: 事前に計画を立てていたので、Nukeに映像を取り込む前に、作業の大部分が完了していました。あとは、CGのレンダリングのクオリティを下げて映像に合わせるだけでした。しかし、このショットを実際にiPhoneで撮影してそのままTikTokにアップロードしたかのように見せたかったので、自動露出の遅れやフォーカスのちらつき、不完全で人工的なボケといった、現代のスマートフォン特有のクセをコンポジットで表現しようと試みました。
Q: Nukeを使い始めたばかりの人におすすめのリソースはありますか。
A: Citrine's AnimationsのHow to use Nuke for Blender projectsは非常に役立ちました。Nukeで最初にコンプしたいと思ったのはフルCGショットだったのですが、このチュートリアルは手放せませんでした。退屈することなく基本を学び、ちょうど良いペースでかなり高度なところまで身につけることができるので、非常におすすめです。
Q: あなたにとって、Nukeで最も価値のある機能はどれですか。
A: 間違いなくCatteryです。VFXアーティストとして、ロトスコープを手作業でやらずにすむ日が来るとは思いもしませんでした。すべてのフリーコンポジターの夢ですからね。
Curtの作品はこちらでご覧いただけます。
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