VFXキャリアへの道筋は十人十色
子供の頃から映画に夢中になり、そこに夢を見出す人もいれば、偶然の出会いから映画の魅力に取り憑かれてしまう人もいる。シニアコンポジターのShonda Hunt氏の場合は後者だ。彼女は、ニューヨーク大学 (NYU) で行われたコンピューターアニメーションに関するパネルディスカッションに参加したことがきっかけで、VFXのキャリアを思いがけずスタートさせた。
「あの夜見た展示作品は、私の人生を一変させました」とHunt氏は言う。「映画やTV番組は見ていても、その映像がどのように作られているのかについては、あの夜まで全く興味がありませんでした。VFXスーパーバイザーによるVFX制作の技術的な説明を、まるで魔法を見ているような不思議な気持ちで聞いていました。
VFX加工前後でのショットの違いを見て、それまでやったことのない方法でクリエイティブな表現ができたら、どんなにいいだろうと思いました。すっかり触発され心を奪われてしまい、1時間後には新しい人生プランを思い描いていたのです。その日、私はVFXアーティストになろうと決心しました」
Hunt氏はその夢を実現し、『Dexter: New Blood』、『ウォーキング・デッド:ワールド・ビヨンド』、『フライト・アテンダント』等、数々の長編映画やコマーシャル、エピソードコンテンツを手がけてきた。また、ソーシャルメディアでは、この業界で仕事をしたいと考えている人々に情報共有を行い、注目を集めている。
フリーランスコンポジターになるまでの経緯やキャリア、FoundryのNukeの活用について話を聞いた。
Q: What projects are you most proud Q: これまで手がけた作品の中で最も誇りに思うものと、その理由について教えてください。
A: 自分が手がけたプロジェクトについては、全てに対して誇りを持っています。私の場合、VFX/コンポジティング業界に入ったきっかけが一般的ではなく、その道のりは決して平坦なものではありませんでした。新しいソリューションやワークフローを見つけたり、ギズモを作ったり、難しいタスクを実行したりするたびに、何もできたなかった時のことを思い出し、コンポジターとしての今の自分に対して誇らしい気持ちになります。
Q: すべてのプロジェクトでNukeを使用していますか。また、Nukeによってどのような課題が解決できますか。
A: 他のプログラムでもコンポジティングを行いますが、フッテージを処理する際の制御性と柔軟性の高さからNukeを好んで使用しています。一つのタスクに対する解決策が一つや二つではなく、無限にあるのがNukeの素晴らしい点です。個々のアーティストのクリエイティブなアプローチを実現するだけでなく、迅速かつ容易に課題解決を図ることができます。
プロジェクト全体にアクセスし、セットアップを迅速に作成してさまざまなコンプ技術を試行できることは、時間的な制約がある場合には非常に重要です。フリーランスとして活動していると、入札過程で見落とされたと思われるようなショットの問題に遭遇することがよくあります。ショットの難易度が入札時と異なり、急に複雑なものに変わってしまうのです。こうした問題が発生しても、Nukeで作業をしていればすぐに解決できるので、それほど心配することはありません。
Q: Nukeの習得について、また実際の制作現場でNukeを使用してみて、どのような感想をお持ちですか。
A: VFXアーティストになろうと決心した後、ニューヨークのプラット・インスティテュートでAfter EffectsやMudbox、Cinema4D、Maya、Avidなどを学び、認定プログラムを修了したのですが、当時Nukeのクラスはありませんでした。
VFX アーティストになりたいとは思っていたものの、業界にこれほど多くの職種があるとは知らず、どこに的を絞ればいいのかわかりませんでした。
プラット・インスティテュートに在籍中、ニューメキシコのソニー・ピクチャーズ・イメージワークスで働いている友人のつてでスタジオを訪問しました。現場で働くアーティストの仕事ぶりを実際に見せてもらうことで、VFX制作のパイプラインとワークフローについての理解が深まりました。
ライティング、テクスチャリング、マッチムーブ、アニメーション、FX、CGなど、各部門のアーティストから話を聞き、最後にコンポジターのSusan Weeksと話したことが転機になりました。
ソニー・ピクチャーズ・イメージワークスは、当時『オズ はじまりの戦い』の制作中で、SusanはNukeを使用して手がけていた猿のフィンリーのショットを見せてくれました。私には素晴らしい出来栄えに見えたのですが、彼女はショットをズームイン/ズームアウトしながらピクセル単位で細部まで注意を払い、より完璧なものを求めて試行錯誤を繰り返していました。ノードを追加/削除しながらノードツリーを構築しているのを見て、Nukeの制御性の高さに目を見張ったものです。
各部門から受け取ったエレメントを合成し、最終ショットに仕上げていくショット加工のプロセスを見て、ニューヨーク大学で見た作品を思い出しました。そして、明確にコンポジターを志してNukeを学び始めたのです。
学び始めてみるとNukeは非常に複雑なプログラムで、習得は容易ではなく時間がかかりました。キャリアをスタートさせた当初は、スクリプトの設定方法、クロップノードやCamera Trackerの使い方など、実践的なスキルを身につけようと貪欲に知識を吸収しましたが、より優れたアーティストになるには知識やスキルの習得に留まらず、ワークフローにおいてイメージをどのように形にするかを戦略的に思考することが必要だということに気づきました。
ノードの設定一つ一つが各ピクセルにどのように影響するのかを理解するのに長い時間がかかりましたが、おかげでNukeコンポジターとして成長することができました。
Q: Nukeの機能の中で最も便利だと思うものと、その理由を教えてください。
A: 最初はノードベースのワークフローに気後れしていたのですが、今では非常に助けられています。これまで多くのVFX制作会社で、それぞれの必要に応じてNukeがカスタマイズされているのを見てきて、いちアーティストとして、さまざまなポストプロダクションパイプラインに対応できる形で、カスタマイズするにはどうしたら良いかを考え始めました。Nukeのノードベースワークフローでは、簡単にテンプレートを作成し、モジュール化されたワークフローを構築することができるので、常に効率的に作業を行うことができます。
複雑な手順をスクリプト化して、プロジェクト間、チーム間で共有できるのはNukeの強みです。Nukeは、機能をしっかりと理解すれば可能性が無限に広がります。何ができるか、何を作れるか、何を省けるか、やるべきことをクリアにするにはどうしたら良いか考えながら、絶えずさまざまなノードビルドを試し、新しいワークフローの開発に取り組んでいます。
私は、デジタルアーティストになる以前は写実画家で、細かいディテールを描くのが好きなんです。最近は、空白のスクリプトを空白のキャンパスのように捉えています。Nukeは最高級の絵筆同様、制御性が極めて高く、フッテージにピクセルレベルで手を加えることができます。
「どんな作業が好きか」とよく聞かれるのですが、特定の作業が好きなわけではなく、コンポジティングの全てが好きです。作業を通して、ツール開発やフッテージ編集、ワークフローの新たな可能性を見出していくのが楽しいですね。作業後に自分の作成したスクリプトを見返して、どうやって組んだか分からなくなることもあります。Nukeの限界と、それを容易に超えてしまう可能性を模索することに夢中になってしまうのです。それがNukeの魅力ですね。
Q: フリーランスのコンポジターとして働く上で、課題があれば教えてください。
A: フリーランスのコンポジターにとって一番難しいのは、成長することでしょう。実際、フリーのアーティストに仕事をしながら学ぶ機会を与えてくれるスタジオはほとんどありませんから、キャリアをスタートさせたばかりのアーティストにとっては大変です。私のキャリアを通しても、トレーニングや開発、知識の共有のための時間を提供してくれる会社はほとんどありませんでしたが、最近ではこうした状況が変わりつつあるようです。多くのVFX制作会社がフリーランスに大きく依存しているわけですから、素晴らしい動きだと思います。
Q: ソーシャルメディアでは、さまざまなヒントや裏ワザをシェアするコミュニティを形成されていますが、その経緯について教えてください。
A: 自分自身のことを思い返してみると、難しいショットや納期の厳しい仕事を信頼して任せてもらえるような技術レベルに到達し、大変な作業も自信を持って引き受けることができるようになるまで、あるいは、ショットのルックデブを行ったり、新しいワークフローやギズモ、トレーニング教材を作成したりといったことができるようになるまでには、相当な時間がかかりました。
キーイングやトラッキングの仕方もわからず、担当ショットに注釈がたくさんついてもその修正方法すらわからなかった時、そんな私に寄り添い、時間をかけて教えてくれる人がソーシャルメディア上にたくさんいました。メールやテキストで私の質問に答え、フィードバックをくれ、常に励ましてくれる人たちがいたからこそ、今の私があるのです。
決して平坦なものではなかったこれまでのキャリアの中で出会い、ここまで私を導いてくれた人々は何よりも得難い存在でした。そうしたすべての人に感謝の気持ちを伝えたいと思いました。
私の投稿は13,000ビューを超え、受信箱に届くメッセージから、私の投稿が他の誰かの役に立っていることを感じました。そうしたメッセージに励まされて、投稿を続けることにしたのです。
ソーシャルメディアは必要な時に多くの人から情報を得ることができ、また多くの人に情報を発信することができる大変便利なツールです。VFX業界で仕事をするのは楽なことではありません。貴重で役立つ裏ワザや情報を共有するブログを作り、夢を実現するために熱心に取り組んでいる人の役に立ちたいと考えました。
Q: Nuke 13.1の新機能で特に注目しているものはありますか。
A: 新しい機械学習ツール、特にCopyCatノードのアップデートは非常に楽しみですね。数年前、SIGGRAPHに参加したとき、Nukeのようなプログラムに機械学習がどのように統合されるかのデモがあり、実際にコンポジティングに使えるようになる日を待ち望んでいました。常にワークフローの自動化が念頭にありますから、新しい機械学習ツールやワークフローの開拓には余念がありません。
スタジオのパイプラインで今年初めてUnreal Engineを使用してから、Nuke Unreal Readerに興味を持っています。自分のことをジェネラリストだとは思っていませんが、一般的な3D作業を理解し、できるようにしておくことは、コンポジターにとって重要だと考えています。3Dに関して、Nukeの中でできることがあればそれがベストです。
Q: Nuke StudioやHieroは使用されていますか。その場合、レビューワークフローについてお聞かせください。
A: シークエンスをレビューする場合は、Hieroを使っています。タイムラインの設定が他のビデオ編集ソフトと似ているので、ドラッグやドロップ、フッテージの長さの調整がとても簡単で、再生やレビューがしやすいからです。まず、必要なショットを全て読み込んでタイムラインに追加し、必要に応じてフッテージをクリップします。
Q: VFX業界を志すアーティストに、何かアドバイスはありますか。どのようなチャンスを探るべきでしょうか。
A: VFX業界の中で自分が情熱を傾けられる分野を見つけることが重要です。情熱を持つことで、自分の道を切り開くことがはるかにやりやすくなります。ポッドキャストやセミナー、ユーザーグループの交流会などで、ベテランのアーティストの話を聞いてみてください。何か役立つ情報が得られるかもしれません。
機会があれば、カンファレンスに参加して人脈を築きましょう。自分が目指す仕事をしている人と繋がりを持つことで、何を目指して頑張っているのかを思い起こすことができます。また、溢れる情報の中から自分ですべての答えを見つけ出すのは不可能ですから、実際に現場で仕事をしている先輩に相談できることは大きなメリットになります。最後に、自分を信じて、目指しているものはすべていつか現実になると思ってください。
Q: パンデミックは、フリーランスのコンポジターとしての働き方にどのような影響を与えましたか。今後、業界での働き方に変化はあると思われますか。
A: 全体として、パンデミックはアーティストの仕事の幅を広げました。Nukeのコンポジターを目指していた時から、さまざまなポストプロダクションのパイプラインでNukeがどのように使われているかを理解するために、フリーランスになるのがベストだと思っていたので、以前は、やりたい仕事に合わせて各地を転々としなければなりませんでした。
Nukeを理解し、成長できたのは、大小さまざまな企業でNukeを使った仕事をさせてもらったおかげだと思っています。ここ数年は、あまり動き回らずにニューヨーク近郊に落ち着きたいと思っていたので、関わるプロジェクトは限られていたのですが、多くの企業がリモートワークフローに移行する中、地理的に離れた企業の、地元ではできないようなプロジェクトに携わることができるようになってきています。可能性が広がることはアーティストと企業の双方にとって良いことで、今後もこの傾向が続くことを願っています。
Q: 業界やコンポジティングの今後のトレンドで、特に期待しているものはありますか。
A: バーチャルプロダクションと機械学習がどのように業界を変えていくのか、とても楽しみにしています。ロックダウン中に『マンダロリアン』を見て、そのVFXに圧倒されました。片端からメイキング解説を見て、どうしてもUnreal Engineを学んでみたくなりました。Unreal Engineは、VFX業界の新しい可能性を切り開くものであることは間違いないでしょう。機械学習やUnreal Engineのようなプログラムを導入することで、アーティストがクリエイティブな作業に集中することができるのは素晴らしいことです。
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