高い評価を受けるエピソードコンテンツの制作秘話
西部劇の世界を再現し、ハイテクを駆使したテーマパークを舞台に、ホストと呼ばれるアンドロイドが暴走していくディストピアSFドラマ『ウエストワールド』。少女探偵と仲間たちが、謎の殺人事件の真相解明に挑む『ナンシー・ドリュー』。地球に不時着したエイリアンが、地球人になりすまして人類抹殺の任務遂行をたくらむSFコメディ『レジデント・エイリアン〜宇宙からの訪問者〜』。
よく知られたこれらのTVシリーズを成功に導いたCoSA VFX は、エピソードコンテンツのニーズに精通し、その高品質なVFX制作には定評がある。4人のアーティストからスタートしたCoSA VFXは、現在では数百人のアーティストを有するまでに成長。デジタルコンテンツ担当ディレクターのMark Nazal氏によれば、そのミッションは、「才能ある者が、妥協のないプロ意識と誠実さ、優しさ、そして敬意を持って、優れたVFXを生み出すことができる、安定した力強いコミュニティを作る」ことだという。
彼らの信念は実を結び、これまでVESアワード、エミー賞にノミネートされた作品は数えきれない。2017年にはエミー賞で『ウエストワールド』、『GOTHAM/ゴッサム』がそれぞれ視覚効果賞、補助視覚効果賞を受賞するなど、その実力は高い評価を受けている。躍進のきっかけである『LUCIFER/ルシファー』、思い出深い作品となった『パーソン・オブ・インタレスト』、クリーチャーワークを徹底的に追求した『スワンプシング』など、CoSA VFXは、一つ一つ実績を積み重ねて技術力を高めてきた。
『レジデント・エイリアン〜宇宙からの訪問者〜』、『ウエストワールド シーズン3』でそれぞれコンポジットスーパーバイザーを務めたEduardo Arroyo氏とRyan Bauer氏、『ナンシー・ドリュー シーズン3』のコンポジットスーパーバイザー Francisco Palomares氏、2D部門責任者Kama Moiha氏に話を聞いた。
CoSA VFXのレシピ
CoSA VFXはNukeを活用し、厳しい制作スケジュールや短納期といった、エピソードコンテンツ制作においてしばしば直面する問題に対処した。
「作業内容の把握、クライアントとの意思疎通を明確に行った上で、必要ツールの評価とCG/コンポジットチームへのスーパーバイザーの割り当てを行って、最適な作業チームを決定しました。さらに、社内リソースだけでなく、スケジュールやボリュームに応じて追加的なサポートをアウトソーシングする必要性についても評価・検討しました」とMoiha氏は話す。
スタジオのセットアップやワークフローは、クリエイティブなプロセスのカギとなる重要な要素だ。コンポジットチームのセットアップの基本は、受け取ったプレートと同様のレンダリングをクライアントに送り返して、プレートの整合性を維持することだが、CoSA VFXのカラーワークフローでは、CDL(Color Decision List)をViewer LUTに自動的に変換し、リニアプレートを維持したままNukeでリファレンスとして使用する。
しかし同時に、セットアップとワークフローの計画には、その手順をサポートする強力なツールセットも必要だ。CoSA VFXが、マルチショット管理/編集/合成/レビューのためのFoundryの強力なパッケージ、Nuke Studioを追加したのはそのためだ。
「ワークフローを効率化するためのカスタムパイプラインツールの開発後、2017年頃からNuke Studioを幅広く使い始めた」と話すKama Moiha氏。「コンポジットスーパーバイザーが作品のさまざまなシークエンスを把握するためのQCツールとして、パイプラインに適合している」という。
Nuke Studioで作成したカスタムツールにより、シークエンス、LUT、トランスフォームなどを自動的に読み込んでトラックを作成し、クライアントから提供されたオリジナルのフッテージやリファレンスと納品映像をスーパーバイザーが比較する際に使用した。
また、エディターが事前にまとめたショットにポストムーブやリサイズを加えて、ショットを適切な長さに調整する際にもNuke Studioを最大限に活用した。大量のショットや複雑なシークエンスを扱う作業が大部分を占めるようなエピソードプロジェクトでは、Nuke Studioによってエフェクトの一貫性を維持した。
アンドロイド、エイリアン、不可解な殺人事件
エイリアンのCGショットの作成から、アンドロイドホストの体やネズミや蛾の生成まで、これ以上ないほどバラエティに富んだ3つの作品のすべてを、CoSA VFXは見事にこなした。こうしたエレメントの制作について、CoSA VFXの3人のコンポジットスーパーバイザーにそれぞれ話を聞いた。
『レジデント・エイリアン〜宇宙からの訪問者〜』のコンポジットチームは、『LUCIFER/ルシファー』から活躍の場を広げ、初めてコメディプロジェクトで主人公のCGキャラクターを手がけることになった。Eduardo Arroyo氏はこの作品について次のように話す。
「この作品は、ワイヤーのクリーンアップのようなちょっとしたものから、宇宙船やエイリアン、背景などすべて盛り込まれたフルCGショットのような大規模なものまで、あらゆるVFXを駆使した非常にクリエイティブな作品です。私がこれまで携わった作品の中でも、間違いなく最もクリエイティブな作品の一つです」。
Arroyo氏はシーズンの大半に寄与し、長期にわたってこの作品に携わったが、その間、制作課題の解決に貢献したのがNuke Studioだ。
「Nuke Studioは長いシークエンスのレビューに非常に便利で、エイリアンのショットの改善やシークエンスのレビュー、ショット間のクオリティや連続性、カラーの維持を図るうえで、かなり役立ちました」。
また、『ナンシー・ドリュー』の制作作業について、Francisco Palomares氏は次のように話す。「セットエクステンションやCG背景からスクリーンへの挿入、ネズミや蛾などのクリーチャー、炎や蒸気の作成、ブルースクリーン、そしてもちろんマジックやファンタジーのエフェクトに至るまで、コンポジット作業がバリエーションに富んでいて、その点では非常に面白い作品です」。
津波が町全体を飲み込むシークエンスは、劇中最大の大規模なVFXシークエンスだが、TV番組の厳しい制作スケジュールの中でこれを完成させたのは、かなりの偉業といって間違いない。
このプロジェクトの特徴であるアナモルフィックアスペクト比に対しては、Foundryのパワフルなクリエイティブ編集レビューツール HieroとNuke Studioを併用してワークフローを効率化し、難なく対応。アナモルフィックなショットについては、すべてアナモルフィックレンダリングを行った。
Palomares氏によれば、「球体のショットについては球体プレートでコンプを行い、コンプの最後にアナモルフィックに変換した」とのこと。さらに、「クリエイティブな問題が発生した場合には、私たちの知見やノウハウをもとに対応し、クライアントに満足してもらえるショットに仕上げることができました」と付言した。
この作品で初めてHieroを使用したPalomares氏は、その使用感について、「直感的で、無駄のないシンプルな使用感に驚きました。ショットを連続してレビューする際に使ったのですが、色も再生も非常に安定していて、何の問題もありません」。
Palomares氏が『ナンシー・ドリュー』の制作に加わったのは作品の終盤、またRyan Bauer氏がコンポジット・スーパーバイザーとして『ウエスト・ワールド』に参加したのも、シーズン3からだった。「当初は、それまでの2シーズンで培われて確立された、言語のようなものに追いつくことに難しさを感じました」とPalomares氏は話す。
そこで彼女は、現場の責任者たちが好むビジュアルスタイルを学んだ後、過去のシーズンの事例や同僚の経験をもとに、新しいエフェクトで好まれそうなルックを予測した。
CoSA VFXのコンポジットチームは、シーズン3の全エピソードに携わった。それぞれのエピソードの作業量は含まれるVFX量によって大きく左右されるが、常に、エフェクト数はもちろんショット数すら予測できない中での作業であった。
Bauer氏によれば、「主に、レハブアムとソロモンのエレメント、ホストの体のクローズアップ、サブライムとスイートウォーターの背景だけでなく、コンタクト、メガネ、ホログラムやデジタルグリッチなどのVR/ARデジタルエフェクトなどを手掛けた」という。
未来へ
CoSA VFXは、VFX業界において実に刺激的な存在だ。彼らがそうしたスタジオになり得たのは、その信念やユニークなワークフロー、エピソードプロジェクトで散見される典型的な課題に対するコンポジットチームの対応等々に加えて、クリエイティビティや専門知識、優れたエピソード作品におけるVFX制作の実務経験によるものだろう。今後も、エピソードプロジェクトで彼らの見事なVFXを見るのが楽しみでならない。