ポリゴン・ピクチュアズの効率的なレビュープロセス

(C)Tsutomu Nihei, KODANSHA/BLAME! Production Committee

東京に拠点を置くデジタルアニメーションスタジオ、ポリゴン・ピクチュアズ。Nuke、Hiero、HieroPlayerを活用し、TVシリーズから長編映画まで、無駄のないプロダクションワークフローを実現している

ポリゴン・ピクチュアズ(以下、PPI)のようなスタジオにとって、厳格かつ効率的なレビュープロセスはプロジェクトやプロダクションを成功に導く重要なカギだ。

1983年に設立されたPPIは、マレーシアの制作拠点「Silver Ant PPI Sdn. Bhd.」を含めて300名以上のクリエイターが集結し、映画、TV、ゲーム、VRなど様々なメディアに対応する先端的なデジタルコンテンツの制作を手がけている。国内最大手のデジタルアニメーションスタジオだ。

「誰もやっていないことを 圧倒的なクオリティで世界に向けて発信していく」という同社の掲げるミッションは、『シドニアの騎士』『空挺ドラゴンズ』『BLAME!』『トランスフォーマー: ウォー・フォー・サイバトロン・トリロジー: シージ』 『スターウォーズ レジスタンス』などの代表作にも表現されている。

現在、高精細映像の需要がますます増加する中、デジタルコンテンツの制作サイクルはこれまで以上に短縮され、制作プロセスも加速化している。様々なツールを使用して同時に複数のプロジェクトが進行する状況下において、チーム間、アーティスト間のコラボレーションを円滑化するレビューツールのニーズは高い。

PPIのエディター/ビジュアライジンググループ・リーダーの佐々 洋章氏は、「シリーズもののアニメーション制作においては、300人以上のアーティストと社外の協力会社によって日々大量のショットムービーが作成されています。私たちは限られた人員と時間の中で、同時進行するプロジェクトの異なるプロジェクトタイムラインにそれらを正確に配置し、迅速にレビューをする必要がある。この作業を繰り返すことで、大量のムービークリップを統合して一つの作品に仕上げることができるのです」と話す。

プロジェクトのタイムライン管理による作業の迅速化、効率化の可能性については、“Let’s talk timelines: why working in context makes sense for your studio”で既に述べたが、ノードベースのコンポジティングツール Nukeと編集/レビューツール HieroおよびHieroPlayerを併用した効率的なレビュープロセスを実施し、プロジェクトの納期や顧客要求を確実に満たすPPIは、クリエイターがアニメーション制作の課題解決に取り組むうえで、こうした作業環境がどのようなメリットをもたらすのかを示す好例といえるだろう。

膨大なショットを扱うプロジェクトにおいて、レビュープロセスが制作スケジュールの短縮化にいかに貢献するのか、その詳細についてPPIの佐々氏と吉平氏にお話をうかがった。

Polygon Pictures, Knight of Sidonia poster

Hieroの広範な活用

5年前にPPIに入社し、モーショングラフィックデザイン、コンポジティング、タイムライン管理、編集等の経験を持つ佐々氏は、Nuke、Hiero、HieroPlayerを連携・活用したプロジェクトのショット管理について話してくれた。

「主に、各ショットのキャラクターと背景画像のコンポジットにNukeを使用しています。FXやHUDなども最終的にNukeで合成しやすいように、それぞれ異なるNukeファイルに読み込みパイプライン上で共有しています」

「アーティストが書き出した各カットのムービークリップを、編集情報に沿ってHieroのタイムライン上に並べ、そのタイムライン上の映像を外部モニターに出力して監督とスーパーバイザーがチェックをおこないます。また、プロジェクトに関わるメンバーが各ショットの制作状況を閲覧・確認する際には、Hieroで作成されたタイムラインをHiero Player で再生しています」

Shotgun、RV、自社レビューツール等との併用により、PPIのレビュープロセスは効率的なプロダクションワークフローの一翼を担っているのだ。

このプロセスにおいてHieroやHieroPlayerを使用するのはNukeアーティストだけではない。「HieroPlayerは、プロジェクトに関わる全てのメンバー、具体的にはレイアウト、アニメーション、FX、コンポジットなど、制作の全工程に関わるアーティストと監督、プロデューサー、コーディネーターなどが使用します。ベースとなるタイムラインはエディターがHieroを使って作成し、それを工程の進捗状況に合わせて更新していきます。また、監督やスーパーバイザーがレビューをする際には、Hieroの外部出力機能を使用しますね」

Hiero screengrab

では、PPIのレビュープロセスはどのようなものなのだろうか。

「まず、アーティストが自ら制作したショットをシングルショット、そしてシークエンスで確認します」と佐々氏。「その後、各アーティストから提出された一連のショットをスーパーバイザーがシークエンスで確認し、承認されたショットがある程度そろったところで、プロジェクト共有のタイムラインを更新して監督とレビューをおこないます」

Polygon Pictures, Drifting Dragons

さらに、HieroやHieroPlayerでのタイムライン生成の詳細については、「アニマティクス制作に使用したノンリニア編集ソフトの編集データをもとに、Hiero上でタイムラインを構築してプロダクションのレビューに使用します。プロダクション中に行われた編集結果はそのままHiero上で再現され、プロダクション終了時に再びXMLを介してノンリニア編集ソフトに送り、オフライン編集に使用するんです」とのことだ。

テレビシリーズ『空挺ドラゴンズ』で監督を務めた吉平“Tady”直弘 氏は、さらにこう話す。「ストーリーボードツールのToon Boom Storyboard Proから書き出した映像データとXMLなどをベースに、プロダクション用のタイムラインを組んでもらっています。作品によってはプレスコによる音声データを後からPremiereなどで編集することもあり、そちらの音声トラックのデータもタイムラインに統合してもらいます」

「また、プロダクション中にプロデューサーからの依頼で構成の追加編集が生じた場合には、Hieroから制作中の映像データと最新の編集データを取り出し、PremiereやStoryboard Proなどの外部ツールを介して変更·更新することがあります。一過性の編集データとしてではなく、オフラインやフィニッシングツール、データベースにデータを書き出し、プロダクション中に生じた変更を制作パイプラインに反映させてオンラインに戻ることができるので、制作上の混乱を防ぐことが可能です。これはHieroの最大の利点ですね」

Hiero timeline screengrab

活用の成果

HieroとHieroPlayerをNukeと併用するメリットは、PPIのプロダクションプロセスに顕著に現れている、と佐々氏。「タイムラインは社内のパイプラインから自動でファイルを収集し生成されます。プロダクションの各工程のレビューに合わせてタイムラインが更新され、その更新もカスタムスクリプトにより半自動的に更新されるようになっています」「これにより正確性と効率性が確保され、クリエイティブな作業により多くの時間を費やすことができます」

HieroとHieroPlayerを使用し、シークエンスやプロジェクトの流れの中でレビューをおこなうことにより、大量のショットを扱うプロジェクト全体の可視性が高まる。これは、アニメーション制作のパイプラインに特に有効だろう。

また、佐々氏は「タイムライン上の各ショットのバージョン更新や変更は非常に容易に行える」という。「シークエンス全体の再生が可能なので、全体の流れの中で作成したショットをレビューすることができます。そして特に重要なのが、複数の異なるアーティストによって作成されるショットから成るムービークリップを、エディターが同一タイムラインに半自動的に収集し、Hiero上で一括管理できるということです」「これにより、エディターだけでは無く、ディレクター、コーディネーター、アーティストなどプロジェクトに関わる全てのスタッフが、最新の情報を共有することが可能になるんです」

Quote from Sasa Hiroaki, Polygon Pictures

この点について、吉平氏も同意見だ。「レビュー時に、エディターに対するフィードバックをその場で反映・確認し、タイムラインも即座に更新することができるので、下流の作業工程で手戻りが生じることがありません。また、様々な作業工程から成るCGプロジェクトにおいては、ショットごとに任意のバージョンを指定して、目的に合わせてレビューができることも強みの一つです。バージョン比較も非常に簡単です」

こうした利点を聞けば、HieroとHieroPlayerがPPIのパイプラインに深く組み込まれているのも当然といえる。さらにPPIでは、ニーズやワークフローに応じてHieroとHieroPlayerのカスタマイズを行っており、社内プロダクションの作業管理のためにタイムラインと連動したHiero上のスプレッドシートを開発。ショットの進捗を把握しやすくしている。

吉平氏によると、「各DCCツールで作成されたデータをパブリッシュするためにツール開発も行い、Hieroとパイプラインの連携を図るためにデータ構造・フローも見直した」そうだ。「こうした開発によって、Hieroのプロジェクトを開けば、ステータスを含めたショット情報をタイムラインとスプレッドシートで俯瞰的に確認できるようになりました」

「また、担当アーティストや作業ステータス、承認済み/リテイク/チェック待ちなどのショットステータス、リテイク内容など、映像以外の詳細な情報についても、別のデータベースを参照しなくてもHiero内で確認できるようにカスタマイズしています」「誰もがいつでもショットを更新できて、迅速かつ容易にレビューが行え、プロダクション中でも編集やポスプロでの変更や修正を更新できるような、編集プロセスのアジャイル化をおこなったのです。」

Screengrab from HieroPlayer

今後のレビューのあり方

現在、2021年公開予定の映画『シドニアの騎士 あいつむぐほし』の監督を務めている吉平氏。この作品は人気コミックシドニアの騎士』の完結版アニメとなる劇場アニメーションで、本作のファンだけでなく、PPIのスタッフも作品の公開を心待ちにしているとのこと。

はたして、プロダクション内外のレビューは今後どのような方向に向かうのだろうか。

「リモートワーク環境においてのレビューのあり方が重要になるのではないかと思っています。」と吉平氏。「実際に制作チームのメンバーが集まってショットの是非を判断するという結果ベースのレビューから、意見を交換して議論を深め、アウトプットの質を高めていく価値ベースのレビューへシフトできれば、監督とアーティストの双方にとってポジティブな結果が得られますし、レビューの重要性や価値も高まるのではないかと思います」

吉平氏は、レビューツールが映像を単に再生するだけのツールではなく、監督とエディター、アーティスト、コーディネーターをオンライン上で接続し、クリエイティブなコミュニケーションを活性化させるツールとして進化し、映像の新たな可能性を生み出す役割を担ってほしい、と考えを語ってくれた。

「素晴らしい映像に対して『拍手』や『超いいね!』ボタンなどでリアクションできても面白いですね。ブーイングだってあってもいいかもしれません(笑)」「レビューが監督とアーティストとの双方向コミュニケーションをベースに、作品のクオリティを高め、新たな可能性を模索する機会になれば理想的ですね」

Quote from Yoshihira "Tady" Tadahiro, Polygon Pictures

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