映画『アウトポスト』に見るFoundryツールを活用した驚異のVFX制作

Courtesy of Worldwide FX

Worldwide FXにおけるMari、Katana、Nukeを活用した戦闘の再現

2020年、コロナ禍の影響で映画の劇場公開の延期や中止が相次ぎ、興行収入が激減する中、数少ない健闘を見せたのが『アウトポスト』だ。本作は、2009年にアフガニスタンで実際に起こった出来事をもとにしたアメリカの戦争映画で、2020年7月3日にアメリカ国内の一部の劇場とプレミアムビデオオンデマンドで公開され、批評家や観客から満場一致で高い評価を受けた。

アフガニスタンの険しい山々に囲まれた谷底に位置する、キーティング前哨基地に駐留する米軍小部隊の物語。アフガニスタン戦争で最も過酷な激戦として知られる2009年の「カムデッシュの戦い」で、タリバン戦闘員からの圧倒的な組織的攻撃を受けながら単独でこれを防いだ。

本作の原作となっているのは、Jake Tapper氏のノンフィクション『The Outpost: An Untold Story of American Valor』。この歴史的に重要な出来事の映画化を担ったのが、ブルガリアを拠点とするWorldwide FX (WWFX)だ。史実に敬意を払う意味においても、完璧な作品に仕上げる必要があった。

2000年に設立されたWWFXは、現在170名以上のビジュアルアーティストを擁し、デジタルコンポジティングやコンピュータグラフィックスの最新技術を駆使して、近未来的な背景から大規模な爆発、繊細なエフェクトまで、多岐にわたって質の高いVFXを作り出している。

『ヘルボーイ』、『ヒットマンズ・ボディガード』、『エンド・オブ・キングダム』、『エンド・オブ・ホワイトハウス』など、WWFXがこれまで手掛けた数多くの作品とは異なり、『アウトポスト』は事実に基づいたストーリーだ。

Quote from Stanislav Dragiev, VFX Supervisor, Worldwide FX

VFXスーパーバイザーのStanislav Dragiev氏は、「この作品は実際の出来事、実際の場所がベースになっているので、カムデッシュ山脈にあるキーティング(前哨基地)をできる限りリアルに再現することが課題でした」と言う。

プロダクションのルックデベロップメント/ライティングコンポジティング工程でこれに貢献したのが、FoundryのMariKatanaNukeだ。これらのツールをどのように活用・併用し、戦場のリアルな描写を実現したのか、Dragiev氏をはじめとする制作チームの主要メンバーに話を聞いた。

Helicopter comped

クリエイティブ調査

『アウトポスト』のVFXスーパーバイザーとして、Dragiev氏は監督のクリエイティブな意図や方向性を完全に理解するために、早い段階からプロジェクトに参加したという。

「最初のロケハンから、監督のRod Lourie氏とともに最高のロケ地を探して回りました。7週間に及ぶ現場での撮影のあと、スタジオでのポスプロ作業に入りました」とDragiev氏。

現場撮影ではこの作品ならではの苦労もあったという。「撮影のほとんどを同じ場所で行うことは稀なのですが、この作品では、廃墟となった採石場で7週間撮影を行い、その間一滴の雨も降りませんでした」。

多忙な制作スケジュールのなか、同時に複数のプロジェクトを抱えることになったチームの作業負荷の軽減に大いに貢献したのがFoundryツールだ。

本作のCGスーパーバイザーを務めたAngel Ivanov氏は、激務をこなし素晴らしいVFXを完成させたチームが使用するMari、Katana、Nukeの連携について次のように話す。「10年ほど前からFoundryのツールを使い続けていますが、今ではそれぞれがWWFXのパイプラインにしっかりと組み込まれています」。

「テクスチャはMariで作成しました。ベイクしたLookFileをショット内すべてのアセットに使用するという通常のやり方です。ショットのライティングとレンダリングはKatana、レンダラーはPixarのRenderManです。Katanaを我々のアセットマネジメントシステムに統合したことで、バージョン管理や、Nukeを使用する際にサーバー上のレンダーイメージを探す必要がないなど、出力(レンダリング)に関する多くのメリットが得られました。また、入力データ(ライティングの前工程のモデリングやレイアウト、アニメーションのジオメトリキャッシュなど)についても同様です」。

「最終段階では、カスタムのリードノードでライティングのレンダリング結果をNukeに取り込みました」。

『アウトポスト』のVFX作業は、その複雑さゆえの課題があった。「すべての工程で膨大な量のデータ(ジオメトリ、テクスチャ、各種キャッシュ、ディープレンダリングなど)を処理しなければならず、非常に大変でしたが、Mari、Katana、Nukeによって短時間で処理することができました。データが複雑化してもうまくスケーリングできて、必要な時だけデータをロードするディファードローディングは大きな利点です」とIvanov氏は説明する。

Quote from Angel Ivanov, CG Supervisor, Worldwide FX

テクスチャリング

『アウトポスト』のポストプロダクションにおいて、ルックデベロップメントプロセスに関わったWWFXのモデリングチームの責任者Ivaylo Ivanov氏は、次のように振り返る。

「この作品は様々なタスクがありましたが、人間のキャラクターから銃、ヘリコプター、地形や建物に至るまで、ほとんど全てのルックデブをMariで行いました。ヘリコプターや銃は全く問題なく順調に作業を進めることができましたが、一番苦労したのは背景モデルです」。

3D Texturing with Mari on The Outpost 1
3D Texturing with Mari on The Outpost 2

こうしたモデルやテクスチャ作成における、プロシージャルとペイントの兼ね合いについて、Ivanov氏は次のように話す。

「我々は大所帯なので、ワークフローやアプローチの面ではそれぞれ好みが異なりますが、一般的に、ほとんどのアセットについてはプロシージャルなテクスチャリングから始めて、その後ペイントする場合もあれば、しない場合もあります。プロシージャルはMariの得意とするところなので、できるだけ使いたいと思っています」。

『アウトポスト』はじめ、WWFXが手がける多くのプロジェクトの規模や複雑さを考えると、ルックデブのワークフローをサポートし、効率化を図るテクスチャリングツールが不可欠だ。そこでIvanov氏に、他のツールと比較したMariの優位性について訊ねてみた。

「多数のオブジェクトやマテリアル、UVスペースを含む大規模で複雑なシーンや、8K以上の高解像度のテクスチャに対応できるのはMariだからこそだ、という声は多く聞かれます。その他、プロシージャルなテクスチャリングワークフロー、マスク、ビューポート上でのテクスチャプロジェクションやUVスペースもMariの強みです。以前に比べて、シーンからのマップ/テクスチャのエクスポートが高速化できたのは大きなプラスですし、テクスチャペインティングは他のソフトウェアでは味わえないユニークなものです」。

3D texturing in Mari on The Outpost

ルックデブとライティング

MariとNukeを使用したコラボレーション作業に欠かせないのが、Foundryのルックデベロップメント/ライティングツール Katanaだ。2015年からWWFXのルックデベロップメント/ライティングのメインツールとして活用されてきたKatanaは、今ではパイプラインに欠かせない存在となっている。

ライティング/レンダリングチームの責任者であるSvetoslav Ganchev氏は、「Katanaの信頼性と効率性については実証済みで、多くのプロジェクトのレンダリングに活用しています。Katanaのノードベースのアプローチにより、3Dシーンの構築と管理が非常に容易に行えます」と話す。

実は、『アウトポスト』のポストプロダクションでは、多くの複雑なライティング課題に直面したという。

「このプロジェクトで行った作業のほとんどは、山と植物からなる屋外環境という大規模なセットに対応するというものでした」とGanchev氏。「3Dライティングをメインフォトグラフに一致させなければならず、また担当したショットの大部分は非常に長く、1000フレームを超えるものも少なくありませんでしたし、カメラの動きが多いのも特徴でした。編集作業では、繋ぎ合わせたプレートでもCGライティングがマッチするように調整しました。また、セットとのライティングの整合性を保つため、異なるライティング設定を切り替えるのに写真や撮影の時間などのデータを参考にしてKatanaの設定を行いました」。

3D Lighting and Shading in Katana on The Outpost 1
3D Lighting and Shading in Katana on The Outpost 2

Ganchev氏によれば、WWFXのライティングチームは、満を持してこの大規模で複雑な屋外のデジタルセットに臨んだという。「ここ数年、私たちはデジタル環境の仕事をかなりの数こなしてきましたが、その過程で、最新の3Dアセットやレイアウトを素早く取り出してKatanaでシーンを組み立て、ライティングできるワークフローを構築してきました。

レンダリングエンジンに供給されるデータの大部分は、ポイントクラウドと低解像度のジオメトリに基づいてオンザフライで生成されます。このプロセスを自動化するために、OpScriptsを使用しているのですが、OpScriptsが素晴らしいのは、Luaの高速なパフォーマンスが得られること、APIが使いやすいこと、さらにKatanaではアプリケーション内でスクリプトのためのユーザーインターフェースを作成できることです」。

過去5年間にわたり、Katanaを幅広く活用してきたWWFXのライティングチームは、迅速な制作スケジュールと品質基準の向上を図るうえで、Katanaとともにワークフローがどのように進化してきたか、また、どのような機能を活用して、プロジェクトに合わせたワークフローの拡張を実現したかを示す好事例といえる。

「当時Katana 3.6に導入された、NetworkMaterialCreateやNetworkMaterialEditノードといった追加機能を活用しました。Katanaはリリースごとにパフォーマンスが向上しているので、どんどん複雑なシーンをレンダリングするようになっていますね」。

Helicopter breakdown, The Outpost

また、純粋にクリエイティブな作業に集中できるとして、長年気に入って使用しているというのがMonitorとCatalogだ。

「他のツールと比較しても、ライティングに特化して非常によく作られています。ライブレンダリングシステムと組み合わせることで、快適にライティングが行えます。

Katanaの素晴らしい点は、コンピュータグラフィックスとレンダリングに対する全体的なアプローチです。シーンデータの操作については、高度なものからシンプルなものまでさまざま用意されており、シンプルなタスクであれば、いくつかのノードを素早く組み合わせて思い通りの結果を作ることができますし、特殊なタスクであれば、Lua APIを使ってあらゆるシーングラフにアクセスすることができます」。

現行バージョンのKatana 4.0で搭載された新機能については、「ビューポートのライティングモードも非常に素晴らしいですが、私が一番気に入っているのはKatana Foresightワークフローです。日々の作業を大幅に改善してくれる機能だと思います。ライティングで最も重要なのは、異なるカメラビューやライティングの設定、シェーディングのバリエーションなどを常に比較することですが、この機能は本当に素晴らしいですね」。

コンポジティングの詳細

WWFXのコンポジティングチームは45人のアーティストで構成され、その3分の1がシニアアーティストだ。

本作の2DスーパーバイザーであるPeter Keranov氏は、ロトやクリーンアップ、キーイング、マットペイントのプロジェクション、ライブラリエレメントの追加といった幅広いタスクにおいて、Nukeの使用を一任された。

Keranov氏は、「ライティング、シミュレーションしたCGレンダリング結果をNukeで合成・統合し、さらに銃口の火花や着弾のエフェクトをフッテージライブラリから追加しました」と説明する。

「ポイントは、作品の中心となっている軍の駐屯地が、岩の要塞に囲まれているということでした。そこで、背景の山を2.5Dで作成し、そこに駐屯地のCGモデルを配置しました。そして、レイアウトチームが作成したこの背景の中にすべてのカメラを正しく配置し、Nukeで合成した山々をレンダリングできるようにしたのです」。

CG mountain comp breakdown, The Outpost

パイプラインにおけるNukeの重要性について、Keranov氏はさらに次のように話す。「Nukeは包括的なソリューションであると同時に、カスタマイズ性が非常に高く、カスタムツールの作成やセットアップが容易で、使いやすい点が気に入っています。ロトやクリーンアップ、実写素材の追加、エンバイロメントやデジタルマットペイントの設定、オブジェクトへのテクスチャやリフレクションの追加など、あらゆる場面で使用しており、その3D作業環境について非常に高く評価しています」。

こうした作業環境は『アウトポスト』の複雑なVFX制作を管理する上で特に役立ったという。「Nukeの3D作業環境は、2.5D環境で作業する際にも非常に便利です。テクスチャやオブジェクトのレビューや変更にも柔軟に対応できます。群衆シミュレーションや、血、煙、瓦礫といった実写映像素材の追加にもNukeを使用しましたし、Smart Vectorを使って、兵士の傷や汚れのトラッキングも行いました」。

Quote from Peter Keranov, 2D Supervisor, Worldwide FX

業界需要に対応する製品開発

Mari、Katana、Nukeという3つのFoundry製品の併用により、WWFXはそれまで抱えていた技術的障壁を乗り越えてパイプラインを強化し、『アウトポスト』に見られる極めて質の高いVFXを実現した。

「より複雑なVFXへの需要はますます高まっています」とライティング/レンダリングチームの責任者 Svetoslav Ganchev氏は言う。

こうしたGanchev氏の懸念は、クオリティのさらなる向上を求める観客やクライアントの声が高まる中、「より良いものを、より早く、より安く」提供しなければならない、世界中の制作現場やアーティストが直面する業界全体の課題を反映するものであり、Foundryが製品開発で取り組む課題とも一致する。

圧倒的なスピードとパフォーマンスを提供するための私たちのたゆまぬ取り組みは、製品開発にとどまったものではない。製品の最適化やUXの改善、革新的なオープンソース技術によるソフトウェアの統合を定期的に行い、コラボレーションを推進し、クリエイティブな作業をさらに楽しいものへと変えていこうとする試みを継続することで、『アウトプット』のような質の高い作品が今後ますます増えていくと考える。

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