短納期エピソード型コンテンツ制作におけるAtomic Cartoonsの取り組み

高い評価を受けるアニメーションスタジオ Atomic Cartoonsでは、NukeとKatanaを用いたワークフローを導入し、今日の過酷なエピソード型コンテンツのプロダクションに対応可能なパイプラインを構築。

2020年、アニメーションがメディア&エンターテイメント業界を席巻した。世界的パンデミックで現場撮影が完全に停止するなか、実写プレートに依存しないアニメーションはほとんど影響を受けずに制作を続けることができ、VFX作品に代わる台頭に至った。

需要増大による供給の拡大が求められる中、エピソード型コンテンツに対するニーズの高まりを受けてアニメーションのプロダクションサイクルの短縮化が進む現状は、多くのアニメーションスタジオにとって困難な状況と言わざるをえない。時間的制約や高いクオリティ要求、資金的・技術的課題など、スタジオには多方面にわたる迅速な対応が求められる。

そうした今日の厳しい制作課題に万全な体制で対応するのが、1999年に設立された Atomic Cartoons だ。業界におけるその実績は、アーティスト主導の多面的なアニメーションスタジオとしての確固たる地位を支えている。

「当社はこれまで、数々の賞を受賞した有名作品の制作も手掛けてきました。有能でクリエイティブなスタッフとともに開発されたプロダクションパイプラインやワークフローは高い実績を誇っています。」とスタジオDFXスーパーバイザーを務めるTim Llewellyn氏は胸を張る。

カナダのバンクーバーとオタワ、アメリカのバーバンクとカリフォルニアに拠点を置く同社は、従来の2DおよびCGの技術とパイプラインの両方を活用し、それらを融合させながら、幅広いクライアント向けにアニメーションのコラボレーション制作を行っている。Llewellyn氏によれば、核となっているのは「アーティスト一人一人のスキル同様、チームコラボレーションを重んじるスタジオ文化」だという。

カナダのバンクーバーとオタワ、アメリカのバーバンクとカリフォルニアに拠点を置く同社は、従来の2DおよびCGの技術とパイプラインの両方を活用し、それらを融合させながら、幅広いクライアント向けにアニメーションのコラボレーション制作を行っている。Llewellyn氏によれば、核となっているのは「アーティスト一人一人のスキル同様、チームコラボレーションを重んじるスタジオ文化」だという。

Atomic Cartoonsの原動力

Llewellyn氏にAtomic Cartoonsの職場としての魅力を尋ねると、すぐに答えが返ってきた。そこからは、スタジオとスタッフに対する熱い思いが感じられる。

「Atomic Cartoonsは素晴らしいスタジオ文化を持つスタジオです。クリエイティブなアーティストが多く在籍しており管理チームのサポートも手厚く、やり甲斐のあるプロジェクトや素晴らしいクライアントと仕事ができるのも幸運なことです。年に2回実施されるスタッフアンケートは、大手スタジオのようなサービスを提供しながら、1人1人のアーティストがそれぞれの専門スキルを活かして活躍できる職場の実現に役立てられています。」

同社はスタッフが得意とするスキルに着目し、エピソード型コンテンツから長編アニメーションやVFXまで、様々なバックグラウンドを持つメンバーでチームを構成している。これは作品制作にどのような影響を与えているのだろうか。Llewellyn氏は次のように説明する。「私たちはアーティストをスタジオの重要な資産と考えており、多様な経験やスキルを持った人材でチームを編成するようにしています。そうすることで、プロダクションワークフローへのアプローチをよりモジュール化し、個々のプロジェクト固有の課題を積極的に解決することができるのです。」

エピソード型アニメーションの制作に特化したAtomic Cartoonsはどういった課題に直面し、それをどのように克服しているのだろうか。

「TVアニメーション制作における最大の課題は、クリエイティブなストーリーテリングの実現だけでなく、中規模スタジオにありがちなタイトな制作スケジュールと予算の中で、複数のシークエンス、エピソードにわたり繰り返し利用できる、エピソード型コンテンツをベースにしたワークフローの構築です。」とLlewellyn氏は言う。

「放送局によるストリーミングサービスの登場により、同じ制作期間でもコンテンツのクオリティ水準が上がるなど、この分野における競争は格段に激しくなっています。Katanaとそのカスタマイズ性は、そうした状況の打開にきわめて有効です。単純作業を自動化し、アーティストは技術的な問題に煩わされることなく、クリエイティブな作業に時間を費やすことができます。」

パワフルなルックデベロップメント/ライティングツールであるKatanaは、Atomic Cartoonsのパイプラインに最近導入されたもので、通常コンポジティングツールNukeとの併用によりハイクオリティ映像の効率的な制作を実現し、同社のクリエイティブワークフローの促進に貢献している。

「現在では、多くのCGプロダクションでKatanaとNukeが併用されています。」とLlewellyn氏。「Katanaの最大の利点の一つは、Nukeと同じ開発元によって開発されたツールであるため、ツール間の連携が取りやすく使い勝手が良いことです。UIの違いはあるものの共通点も多く、作業がしやすいというメリットがあります。」

Quote from Tim Llewellyn, Atomic Cartoons’ Studio DFX Supervisor

 

「もう一つの利点は豊富な人材です。VFX業界におけるKatanaの普及により経験豊富なKatanaアーティストの裾野が拡大したことは、昨今の作品クオリティの向上に大きく寄与していると思います。」

Katana導入に至るまで

Atomic CartoonsもKatanaの導入以前は、多くのスタジオが直面したように制作フローの標準化が大きな課題となっていた。

「Katanaの採用以前にあった課題の一つが、プロジェクトの標準化が不完全でシェーディングやショットワークの一貫性が保てないということでした。」とLlewellyn氏は言う。「生産性を高めアーティストのクリエイティビティを回復させるためにも、より強固なパイプラインが必要でした。」

これは、FoundryがKatanaの開発ビジョンとして掲げる「アーティストがクリエイティブな作業に集中できるように、技術的な障壁や矛盾を取り除く」と完全に一致するもので、Atomic CartoonsのプロダクションパイプラインへのKatanaの採用決定を裏付けている。

Llewellyn氏は「私たちは、ハイクオリティな映像表現を実現するために予算を最大限に活用できる革新的な技術を常に模索しています。」と話す。「また、パイプラインやワークフローを意識せず作業に集中できるようにすることで、アーティストの使用感を高めています。メインアーティストの多くは、実績のあるアニメーション映画やVFX作品においてKatanaを使用した経験がありましたし、カスタムテンプレートの設定が容易なうえ、プログラマだけでなくアーティスト自身がカスタムのツールやマクロを作成できるKatanaは、私たちが直面している課題の解決に役立つだろうと考えました。」

「3DパイプラインにKatanaを完全導入し、現在開発・制作中のすべてのCGプロジェクトで使用しています。」Llewellyn氏はこう続ける。「Katanaの導入以降、すべての作品でKatanaのテンプレートやツールセットが共有され、ルックデベロップメント/ライティング パイプライン全体の標準化が進みました。」

ライティングチームの主要メンバーは、ワークフローにおける標準化のメリットについて次のように話す。

Quote from Travis Guthrie, Look Development Supervisor, Atomic Cartoons

「Katanaはインターフェースのカスタマイズ性、作業プロセスやワークフローの一元化という点で非常に優れています。」ルックデベロップメント スーパーバイザーのTravis Guthrie氏は、「シェーダーや作業プロセスをプロダクション全体で共有できるようになり、より迅速なターンアラウンドとアセットの再利用が可能になりました。モデルに応じたテンプレートを用意することにより、アセットはアーティストが触れる前からシェーディングされています。このためアーティストは有利なスタートポイントから作業を開始することができるのです」と話す。

ライティングスーパーバイザーのScott Penningroth氏も口をそろえる。「Katanaの導入が期待に応えるものであったことは間違いありません。テンプレートやツールの開発により、アーティストは単なるデータ修正の作業に終始するのではなく、ショットのルックに集中できるようになりました。修正や変更は同様のショットに自動的に適用されるので、複数のショットを一括で処理することができ、作業効率も上がりました。」

ライティングスーパーバイザーのScott Penningroth氏も口をそろえる。「Katanaの導入が期待に応えるものであったことは間違いありません。テンプレートやツールの開発により、アーティストは単なるデータ修正の作業に終始するのではなく、ショットのルックに集中できるようになりました。修正や変更は同様のショットに自動的に適用されるので、複数のショットを一括で処理することができ、作業効率も上がりました。」

「私たちはアーティストを尊重し、それぞれに仕事以外の生活があることを理解した上で、一貫したワークライフバランスの維持に努めています。」とLlewellyn氏。「Katanaのテンプレートの活用や階層型ワークフローの採用により、チーム間、部門間の緊密な連携をサポートしています。その結果クリエイティビティを維持できるだけでなく、作業効率の向上やアーティスト同士のコラボレーション、複数ショットを一度に処理することが可能なワークフローが実現し生産性が高まったことで、長時間労働が当たり前の激務という固定観念から脱却し、残業を極力減らすことができるようになりました。」

Atomic Cartoonsでは具体的にKatanaのどういった機能を使用して生産性を高め、アーティストのクリエイティビティを回復させたのか。Llewellyn氏は次のように続ける。「とりわけライブレンダリング機能は、アセットやショットのルックを決定する際に迅速なターンアラウンドが可能です。ライティングアーティストは、ライトを動かしながらポジションやタイプだけでなくマテリアルの反射具合までその場で調整することができます。ルックデブ工程まで戻らなくてもこうした調整が行えることで、上流工程に差し戻すことなくシーンのクオリティを詰めることができます。」

最新アップデートであるKatana4.0では、ショットやプロジェクトにわたるコントロールや可視性を実現するForesight Renderingワークフローを導入するなど、これまでにない機能強化が行われた。Katanaの旧バージョンから使用しているAtomic Cartoonsにとって、特に試してみたい4.0の新機能はどのようなものか。

「4.0の新しいネットワークマテリアルを試すのが楽しみですね。」とGuthrie氏。「これまでは、マクロやマテリアルを作成するのに膨大なカスタマイズを行い、かなりの時間を要していました。4.0では新しいシステムでそれらを再構築したいと考えています。」

Penningroth氏も次のように話す。「Katana 4.0では、特にスナッピングが気になります。Multiple Simultaneous RenderingとNetworked Interactive Renderingについても試してみたいと思っています。」

KatanaとNukeの連携

ルックデベロップメント/ライティングワークフローとコンポジティングの連携についてはどうだろうか。結論から言えば、Atomic Cartoonsでは両ステージが密接に関連し合っている。

「1人のアーティストがライティングとコンポジティングの両方のタスクを担っており、Katanaで作成したレンダーパスをNukeでコンポジティングしています。」とLlewellyn氏は説明する。「通常のプロジェクトでは、8〜12名のライティング/コンポジティングアーティストによって構成されたチームをさらに小グループに分け、個々のエピソード制作をグループごとに交互に進めています。」

二つのプロダクションステージにわたるKatanaとNukeの連携、また、二つのツールを使用して作業を行うアーティストやチームにとっての併用のメリットについて、さらに詳細を尋ねた。

「Light AOVsを使用してNukeでライティング調整を行うことは、短期間でスピーディーなイテレーションを行う上で、当社のライティング/コンポジティングパイプラインの必要要件です。」とLlewellyn氏。「作業を容易にするためにそれぞれの作品に合わせたカスタムテンプレートを準備し、画像の読み込み、デプスヘイズ、ビネット、ライトラップ、被写界深度、そして必要に応じたディープコンプへ切り替えといったワークフローを効率化しています。

こうしたワークフローはスピードと作業性向上を図るために設計されたもので、アーティストにショットのコントロールを与え、求められるルックを実現するために必要なコンプの “ショートカット” を考えることができます。」

シークエンスベースのルックデベロップメント/ライティングツールであるKatanaでは、アーティストが上流に作成されたライトをプロシージャルに編集できるため、ショットにわたって最適なライティングを設定することが可能だ。エピソード作品の制作にNukeを使用する際にKatanaのシークエンスベースのワークフローがどのように役立つかという点について、Llewellyn氏は次のように話す。

「エピソード型コンテンツでは似通ったショットが多いため、効率化と同時に、アーティストがよりクリエイティブに作業を進めることができるように、テクノロジーを活用する方法を模索していました。シークエンスベースのワークフローを導入し、カメラアングルやロケーションに基づいてリードやスーパーバイザーによって設定・作成された親ショットに変更があれば、それに基づいて設定されたサブショットにも変更が継承され、一括してレンダーファームに送信することができます。

設定やオーバーライドは、LiveGroup機能を使用してシークエンスごとにコントロールすることができ、必要に応じてアーティスト自らショットレベルのオーバーライドで簡単に変更できます。このプロセスはKatanaとNukeの両ファイルに対して実行されるので、効率的かつ柔軟な作業が実現できます。」

Nuke活用のメリット

Atomic CartoonsではNukeがKatanaよりもかなり前にパイプラインに統合され、長期にわたりパイプラインで活用されてきた。ポストプロダクションにおけるNuke活用のメリットと採用の理由について、Llewellyn氏は次のように振り返る。

「Nuke採用の理由は、業界での実績、その柔軟性とアーティストからの認知度の高さによるものです。Nukeは以前から業界で広く使用されており、ツールそのものやベースとなるワークフローに対するアーティストの認知度が高いため、導入ハードルは非常に低いと言えるでしょう。」

さらに、「コンポジティングは作業が多岐にわたるので、カスタムのギズモやマクロがたくさん必要です。Nukeは作品ごとに簡単にカスタマイズが行え、デプスヘイズやビネット、ライトラップ等のエフェクトを追加して作品のクオリティレベルを上げることができます。また、被写界深度を追加できるPgBokehや画像の色調整が簡単に行えるCryptomattesなど、サードパーティ製のプラグインも簡単に統合できますからより完成度が高まります。」と話す。

さらに、「コンポジティングは作業が多岐にわたるので、カスタムのギズモやマクロがたくさん必要です。Nukeは作品ごとに簡単にカスタマイズが行え、デプスヘイズやビネット、ライトラップ等のエフェクトを追加して作品のクオリティレベルを上げることができます。また、被写界深度を追加できるPgBokehや画像の色調整が簡単に行えるCryptomattesなど、サードパーティ製のプラグインも簡単に統合できますからより完成度が高まります。」と話す。

ライティングスーパーバイザーのManuel Candanedo氏によれば、Nukeの3Dツールセットは手間と時間のかかる作業に特に有効だと言う。他のソフトウェアとの違いについて次のように説明する。「.abcファイルをインポートできるので、DCCツールに戻ってレンダリングし直す必要もなく、ツールやギズモを作成して効率的で無駄のないワークフローを維持することができます。」

Llewellyn氏はこの点を強調し、「エピソード型コンテンツの制作においてはスピードと効率性が重要ですから、Nukeは私たちのワークフローに最適です。」と言う。「作品に合わせたカスタマイズが可能なテンプレートを使用して、AOVsでライティングとコンポーネントのプレビズ、調整を行うことで、再レンダリングせずにインタラクティブに結果を確認でき、納期に迅速に対応することができます。

また、NukeのLive Groupsを使用することで、キャラクターや背景のセットアップの作成と調整が簡単に行え、固定した設定を複数のシークエンスやエピソードへ容易に展開することができるため、プロダクション全体を通して品質と一貫性を確保することができます。」

 

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