Foundry のKatanaを用いたシークエンスライティングとBボット制作
現代のデジタル社会に生きる私たちの多くは、ロボットが人間とともに暮らす未来を想像してみたことがあるはずだ。この分野には驚くべき進歩があり、ロボットの反乱に対する恐怖さえ感じてしまうほどだが、『ロン 僕のポンコツ・ボット』は異なる視点を与えてくれる。
この映画に登場するBボットのロンは、思わず欲しくなってしまうような可愛いポンコツロボット。これは、 ロックスミス・アニメーションから依頼を受け、この作品のCGとBボットのリファインを担ったDNEG Animationの素晴らしい仕事によるものだ。
DNEG Animationにとっては、比較的新しいパイプラインを使った初めての長編映画制作であったことに加え、特に在宅勤務への移行や新しいチームメンバーのトレーニング、モーショングラフィックスエレメントなど複雑なキャラクターや背景のデザインといった課題も重なり、プレッシャーもあった。
「『ロン 僕のポンコツ・ボット』の制作は200人のクルーでロンドンからスタートし、ちょうどパンデミックが始まったときに、ショット制作の増加に伴いカナダとインドに拡大しました。身が引き締まるような、胸が高鳴るような、複雑な気持ちでした」とDNEG Animationの制作責任者であるCrosby Clyse氏は話す。
DNEG AnimationはFoundryのルックデベロップメント/ライティングツールであるKatanaを用いて、こうした課題に怯むことなく立ち向かい新たなチャンスを開拓した。
Bボット制作
DNEG AnimationはグローバルVFXスタジオであるDNEGの一部門で、そのパイプラインは、既存の映画やエピソードコンテンツのVFXアセット制作パイプラインをバックボーンとして構築されている。『ロン 僕のポンコツ・ボット』の制作において、Katanaはルックデベロップメント/ライティングの主要ツールとして活用され、ワークフローに応じてカスタマイズされた。
DNEG AnimationのCGスーパーバイザーであるMatt Waters氏は、「ショット構造を確認できるシーングラフに似たカスタムパネルや、特定のショットを拡張する機能、複数のショットに作業を伝播させる機能など、開発チームによってKatanaで構築されたマルチショットライティングシステムを、スタジオのアセットパイプラインに統合しました」と話す。
「こうした機能のおかげで、小規模なチームでも大規模なショットに対応することができ、無駄な重複作業を最小限に抑えることができます」。
さらに、DNEG Animationのレンダリングスーパーバイザー Derek Haase氏によれば、「長編アニメーションプロジェクトの膨大なデータも容易に扱うことができるので、シーン管理に関しても非常に大きなメリットがある」という。
ネットワークマテリアルの作成から最終的なレンダリングまで、ルックデベロップメントとライティングのすべてがKatanaで行われ、Katanaをワークフローに合わせてカスタマイズするために、独自のマテリアル編集システムまで構築された。この作品の開発プロセスで興味深いのは、複数部署間でのコラボレーション度合の高さだ。
「Bボットの表情や表面はテクスチャリングされたメッシュライトで構成されており、アニメーションはモーショングラフィックチーム、そして光源はライティングチームによるもので、これらのエレメントをルックデブ段階でサーフェシングチームが取りまとめました」とWaters氏は説明する。
「部署間のコラボレーションはショットレベル、アセットレベルにおいても繰り返されており、指定のショットで意図したフェイシャルパフォーマンスを実現できるよう設定されています。次にライティングでルックデブを複数のレンダーパスに分割し、カスタムAOVとマットを使用してコンポジティングで最終的なルックを確立します。部署をまたぐ大規模な試みでした」。
こうしたコラボレーションを重ね、DNGE Animationチームは効率的にBボットの制作とリファインを行い、愛らしいキャラクターを作り上げた。
ライティング課題への対応
他のプロダクション同様、DNEGもさまざまな課題に直面したが、そこにはUSDへの移行に伴うものもあったとHaase氏は言う。
「パイプライン全体のUSDへの移行は、長期的に見てそれが目指す方向性だとしても、非常に難しい課題でした。Katanaは強力なAPIを備えているため、USDと古いデータをKatana内で「混在させる」 ことができ、USDへの移行の第一歩となりました」。
最終的にDNEG Animationは、完全なUSDパイプラインの前段として、USDアセットとDNEG固有のシーン記述形式で構成されるAsset Packagesを組み合わせたハイブリッドアプローチを採用した。これにより、『ロン 僕のポンコツ・ボット』の複雑なシーンの管理、特にキャラクターにおいては、ルックとジオメトリのバリアント管理に非常に役立った。
さらに、登場するキャラクターや背景の多くには、アセットのパフォーマンスとルックに不可欠なモーショングラフィックスのエレメントが含まれていた。Paul Baaske、Watersの両氏とチームは、早い段階で、こうしたエレメントを合成で追加するのではなく、シーンに完全に溶け込ませ、パイプラインの各段階で確認しながら作品に反映したいと考えたが、同時に課題も生じてしまった。
Waters氏によれば、「ライティングにおいて非常に複雑なシーンの管理、特にサーフェシングやモーショングラフィックスなど複数の部署との密接な連携を要した」という。「特に難しかったのは、バーニーがバブル社の店舗からロンを連れ帰るシーンです。このシーンでは、アニメーターやモーショングラフィックスアーティストが作成したテクスチャエレメントを含むBボットが数多く登場しますが、背景の店舗自体がダイナミックな発光するスクリーンのようになっています。これらのエレメントを全て思い通りに機能させ、限られた時間内でレンダリングするのは並大抵のことではありませんでした」。
Waters氏はさらに次のように付け加える。「これを実現するために貢献してくれた多くの才能あるアーティストたちに、特に、Shaun Scottのもとでこのシークエンスの制作に携わった素晴らしいモーショングラフィックスチーム、優れたライティングチームには特別の敬意を表します」。
バブル社の店舗のシーンは、尺が長くて重く複雑なシークエンスで構成されており、それぞれ複雑なエレメントで構成されていた。非現実的な街並み、アニメーションするドームの表面、ジオラマのような店舗の装飾、そしてメインキャラクター、さまざまなBボットや人間の群衆も含まれていた。
これらのシーンエレメントの多くは光源でもあり、太陽や空などの自然光源、店舗や建築物などの人工光源とのバランスが複雑で難しく、アーティスト一人の手には余る作業であったため、チームで分担して取り組むことになった。
Waters氏は、「通常ライティングでは、シークエンスをセットアップしてから類似するショットグループに分割してアーティストに割り当てます」と話す。「このシークエンスでは、さらに一歩進んでシークエンスのセットアップ作業をロケーションごとに分割、シークエンスリーダーは「ハブ」となるスクリプトを所有してシークエンス全体を管理し、個々のライティングアーティストは「ハブ」によって参照される「スポーク」セットアップをそれぞれ管理しました」。
「KatanaのLive GroupとDNEGの開発者が構築したシステムがこのワークフローを成功させる上で主要な役割を果たしました。個々のチームメンバーがセットアップの変更を「ハブ」に出力すると、夜間にレンダリングが実行され、VFXスーパーバイザーとクライアントがレンダーシークエンスを確認し、チームのメンバーが各自それぞれ担当するシークエンスセットアップにマークされた修正依頼に対応できるようにしました」。
「シークエンスのセットアップが承認されると、ショットライティングのワークフローに移行するのですが、シークエンスをいくつかに分割して、一人では手に余るタスクを複数のアーティストで分担し、互いの作業を妨げることなく、並列に同時進行可能なライティングパッケージはKatanaだけです」とWaters氏は続ける。
アニメーション業界の現在
『ロン 僕のポンコツ・ボット』は、高まり続けるアニメーション人気を物語る素晴らしいコンテンツだ。業界では、気軽に楽しめるファミリー向けのエンターテインメントやアニメーションが求められており、その結果として、DNEG Animationとロックスミス・アニメーションに見られるようなベンダーとクライアントの共同制作やコラボレーションが拡大している。
こうした状況が続く中、DNEG Animationクリエイティブプロダクションの役員であるDavid Prescott氏は、アニメーション制作を始めようとしているスタジオに次のようにアドバイスする。
「スーパーバイザーから若手アーティストまで、フィルム製作者とCGアーティスト間の、あらゆるレベルでの強力な関係構築が必要です。そうすることで、適材適所に作業を分担し各チームからベストを引き出すことができるのです」。