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5 人の学生による VES アワード受賞作品『 Hybrids 』の VFX 制作

MoPA の学生チームメンバーが語る作品制作の舞台裏

Alfonso Cuarón 、Sir Ridley 、Scott and Jon Favreau の 3 人の映画監督の共通点は何でしょうか。

3 人とも Visual Effects Society (VES) アワード の受賞経験者であるということです。

VFX のスペシャリストにとって最も栄誉ある賞の一つである VES アワードは、この業界でキャリアをスタートさせようとする学生にとっては憧れの賞と言えます。

Florian Brauch 、Romain Thirion 、Yohan Thireau 、Matthieu Pujol 、Kim Tailhades の 5 人は、今年初めにカリフォルニアで開催された第 16 回 VES アワードで、ショートフィルム作品 『 Hybrids 』が最優秀視覚効果賞 (学生作品部門) 受賞しこの夢を実現しました。

Marine life rendered in 3D

暗い深海の表現

Hybrids 』の制作チームメンバーの出会いは、南フランスの CG アニメーションスクール MoPA でした。

コンポジティング、アニメーション、ライティング、テクスチャリング、モデリングとさまざまなスキルを持った 5 人が卒業作品として共同制作した『 Hybrids 』は、9 ヶ月あまりの時間をかけてそれぞれの強みを活かしつつアイディアを具現化したもので、 海洋汚染がもたらす影響と、生き残るために変わりゆく自然環境への適応を強いられる海洋生物を描いています。

作品のコンセプトは、現在 Double Negative のキャラクター アーティストである Romain Thirion がダイビング旅行に出かけた際に見た光景から生まれたといいます。「時がたつにつれて、彼は水質汚染の現状を徐々に知るようになりました。」プロジェクトメンバーの 1 人で、現在は Framestore でアニメーターを務める Florian Brauch は言います。

「キャラクター制作を始める時に彼の記憶にそのことが残っていて、海の生き物とゴミをハイブリッドした生物を描き始めたのです。鮫と車、蟹と瓶の蓋をかけ合わせたキャラクターのデザインはこうして生まれました。そしてそのデザインをもとにして、チームでキャラクターの構築に取り掛かりました。」

ハイブリッドキャラクターの制作は楽しいものでしたが、それらを取り巻く暗い海底の背景制作は極めて困難であることが想定されました。

水中の光や、海を漂流するゴミのパーティクル表現が非常に難しいことがわかったのです。「最大の課題は水深の表現で、デプスグレーディング、FX パーティクルレイヤー、ストック・フッテージやさまざまな光学エフェクトを組み合わせました。」Thirion は言います。

膨大な数の水中ショットにおいて色の一貫性を保つために、彼らはノードベースのコンポジティング ツールセット Nuke を採用しました。「特定のパラメータがプロシージャルに変化し、あらゆるショットで利用可能なテンプレートを構築するうえで、Nuke は理想的なツールでした。水深表現においては Gizmo をいくつも作成して作業の効率化を図りました。Nuke は、ポストプロダクションでのAOV を再構成し調整するにも非常に適しています。」

Fish in 3D

 

課題の協働解決

作品のテーマは、当然のように海にゴミを投げ捨てる人間の行為によって、予期せぬかたちで適応を強いられている海の生物たちを描くというもの。

5人の学生はテーマの考察を行い、物語に込められたメッセージをどう伝えるか試行錯誤を繰り返したといいます。「ハイブリッドキャラクターの構築やテクスチャ作成、背景制作だけでなく、ライティングや、生命体と機械が融合しサイボーグ化したキャラクターの動きや音の表現についても検討を重ねました。現実に深く根ざしたストーリーを具現化するために、実際の経験から得た知見を作品のあちこちに取り入れました。」 

このプロジェクトを通し、チームで協力してさまざまな課題を解決することにより、大きな達成感を得ることができたと Brauch は言います。「チームとして一つの作品に取り組むことができ、非常に楽しかったです。技術的な課題も数多くありましたが、互いに助け合い成長することができたと思います。また是非一緒に仕事がしたいですね。」

Nuke を用いることで、そうした技術的な課題解決に向けてチームとして連携することができたと Brauch は話します。「Nuke スクリプトを使って、パラメータに分かりやすいラベルを付けることで簡単にグループ化や解除ができ、チームの他のユーザーは難しいスクリプトに頭を悩ませることなく、パラメータの変更をスムーズに行うことができました。」

Underwater life in 3D

 

事前検証の重要性 

後に続く駆け出しのコンポジーターたちに、Thirion は次のようなアドバイスをしてくれました。「コンポジティングは、事前の作業検証とそれを映像として形にするプロセスです。映像制作の最終工程で素材同士を単につなぎ合わせる作業ではなく、一貫したプロセスの一部です。プロダクションの全工程とシームレスに融合しているため、初期段階から考慮しておく必要があります。

私たちはこの作品で、一つ目のキャラクターのモデリングが完成する前からコンポジティング テストを始めました。おかげでレンダリングやライティングの範囲を見極めることができ、作品の映像としての完成度を高めることができたと思います。」

このプロジェクトにおけるコンポジティングの最大の難関について、Thirion は次のように振り返ります。「一番苦労したのは、もちろんカニのシークエンスです。カニの複数のレンダリング素材をシームレスに合成して一つのショットに仕上げなければならず、大変な作業でしたが一番気に入っているシーンです。」

Turtle in 3D

適切なツール選択

コンポジティングを学ぶ学生にとって、どのソフトウェアを習得するか決めるのは難しい選択かもしれません。Thirion は、自身が一見理解しやすく感じる Adobe の After Effects ではなく、Nuke の習得を決めた際の決め手となったポイントについて次のように語っています。「使い慣れたものから新しいものへの切り換えは容易ではありませんでしたが、今では、Nuke が制作現場においてより実用的でプロシージャルなソフトウェアであることを実感しています。」

VFX 業界への就職を目指す学生に、自らの経験をもとに Thirion が推奨するソフトウェアはたった 1 つです。「長編映画、VFX あるいはアニメーションの世界で仕事に就きたいと考えるなら、絶対に Nuke とノードベースのコンポジティングを学ぶべきです。」

「作品のクオリティを一層高める意味で、 VFX アーティストにとって Nuke の習得は、画家が正しいワニスの塗り方や構図の取り方を知ることと同じくらい大事なことなのです。」

 

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Hybrid team

 

「コンポジティングは、映像制作の最終工程で素材同士を単につなぎ合わせる作業ではなく、一貫したプロセスの一部です。」

Double Negative キャラクター アーティスト Romain Tirions 氏