Territory Studio がNukeを活用し、ハリウッドの黄金期を再現。
夏のロサンゼルス。砂漠から伸びる砂埃舞う長い一本道は、やがて1930年代のアメリカの喧騒へと続く。大通りを走る一台の古めかしい車。
これは、Netflix オリジナル作品 『Mank/マンク』の中でTerritory Studio によって再現されたハリウッド黄金期のウィルシャー通りの一コマだ。一見した限りでは、当時の実際の映像と見紛うほど完成度が高い。
このフルCGのリアプロジェクションを手掛けたTerritory Studioは、バーチャルプロダクション技術とNukeを見事に連携させ、きわめてクオリティの高いショットを作り上げた。『Mank/マンク』でVFXスーパーバイザーを務めたSimon Carr氏とリードNukeアーティストのBen Hicks氏に、この手法を活用した昔懐かしい風景シーンの制作について話を伺った。
1930年代アメリカの再現
まず、Carr氏はチームとともに、1930年代のウィルシャー通りのリファレンス映像をもとに、通りの再現に必要なものを揃えることに取り掛かった。
Carr氏は、「古い写真や地図と照らし合わせながら、当時通りにどのような家や建物が並んでいたのか映像をくまなく調べ、さらには現代のLAの様子も参考にしながら、少しずつ細部を作り込んでいきました。」と説明する。
また、本作が映画史上最高の傑作と讃えられる『市民ケーン』の誕生過程を描いた物語であることから、この名作へのトリビュートとして、リファレンス写真を『市民ケーン』で使用されたフィルムストックからキャプチャし、完成映像のモノクロ表現のガイドラインとしてモノクロLUTのルックを設定した。
本プロジェクトでは、LEDスクリーンに投影したCGの街並みを背景として使用したため、撮影前に背景プレートの制作作業が進められたが、Carr氏にとってLEDを使用するのは本作が初めてであったという。
「パネルの性能が向上したことで、この技術に対するプロダクションの関心は非常に高まっています。本作はモノクロで撮影されているため、従来のグリーン/ブルースクリーンによる手法が使えず、運転シーンはじめいくつかのシーンはLEDを使用して実現しました。」
撮影前に背景を完成させる必要があったため納期限は明確に設定されていたが、シークエンスの構築に十分な時間を確保するために、撮影スケジュールは可能な限り後送りされた。
作業の管理と負荷への対応
納品まで約8週間というきわめて短納期でのシークエンス制作を手掛けることになったチームは、プリビズから最終納品までFounrdyのNukeを活用して作業負荷に対応した。
本作のリードNukeアーティストであるBen Hicks氏は、「今回のプロジェクトではあらゆる工程でNukeを使用しました。最初のスラップコンプでマットペイントで何を追加すべきかを確認し、3Dやパーティクルのツールセットを駆使してショットに新たな要素を加えていきました。その後、Nukeですべての要素を一つにまとめてショットを仕上げました。」と話す。
レンダリングシークエンスを数日ごとにコンプチームに提供するため、3Dチームはテクスチャリング作業に追われた。Hicks氏は、ショットのルックデブと2D作業を進めながら作業中の3Dシーンを管理して、マットペイントの修正や2D要素の追加などのアップデート管理を行うことが一番の課題であると考えた。
そこで、個々のショットのルックデブ作業を進めながら、3Dチームによるテクスチャリングの進捗に合わせてシークエンス全体を管理できる、基本的なテンプレートスクリプトをNukeで作成することにした。
また、ディテールの追加やデジタルセットの仕上げなどにもNukeを活用し、3D作業の負荷軽減にもつながったという。
「通り沿いの建物の店先まで再現するために3Dディスプレイを作成しました。シーン全体の作業を同時に行っていたので、別のカメラショットと入れ替えて同じ作業を複数のショットで使用することができたのです。」
「個人的に気に入っているのは、ウィルシャーフォックスシアターです。1934年当時、どのような映画が上映されていたかを調査し、映画館の正面にマーキーサインを付けたり、オリジナルの映画ポスターを探し出して屋外掲示板に貼付したりしました。」とHicks氏。
こうした細かい部分に、Hicks氏やTerritory Studioのアーティストの真価が表れている。
Nukeの新たな活用
さらに、プリビズで行った作業をもとにNuke内でスタンドアロン3Dを使用して、セット上でLEDスクリーンと物理的なカメラ、車の位置のシミュレーションを行った。
これにより、レンダーに接続して異なるカメラ位置から画面を確認し、撮影当日の状況を明確に把握することができた。
「完成した映像はモノクロですが、作業はフルカラーで行いました。モノクロのビューアLUTを用意して、カラーとモノクロ両方のカラースペースを簡単に切り替えられるようにしました。このLUTはベイクして、Shotgunパイプラインを介してNukeでレンダリングし、クライアントへの納品物を作成する際にも使用しました。」
納期に対応するためにNukeを最大限に活用した結果、Territory Studioはウィルシャー通りの非常にリアルな描写を実現した。なかでも重要な役割を果たしたのがNukeXのパーティクルシステムだ。
Hicks氏は、「このプロジェクトでは、大気中の塵や車の排気ガス、地表から立ち上がる陽炎など、Nukeのパーティクルを使用してさまざまなエフェクトを作成しました。レンダリングしたCGの後ろにある樹木も、Nukeのパーティクルシステムで作成したものです。とてもシンプルなシステムですが、非常に効果的でした。」と説明する。
NukeXのパーティクルシステムを使用することで新たな可能性が見出され、シークエンスの細部まで見事な仕上がりを実現できたという。
NukeのパーティクルシステムについてHicks氏は、「とにかく気に入っています。2Dアーティストは、通常他から提供されたエレメントやパスを使って作業をすることが多いので、自分の担当ショットで完璧なパーティクルエフェクトを目指して作業するのは、とても新鮮でやりがいがありますね。」と話す。
神は細部に宿る
Nukeを使用してリアプロジェクションシークエンスを作成し、1930年代のウィルシャー通りをリアルに再現したTerritory Studio。Hicks氏はNukeの優位性について次のように語ってくれた。
「最終的には、Nukeの幅広いツール群によってコンプ作業を完全にコントロールできたと思います。2Dと3Dの行き来や独自のパーティクルパスの生成が行える上、すべてを一つのソフトウェアで仕上げることができるのは非常に素晴らしいです。その他の利点として、カスタマイズやパイプラインの他のツールとの統合が可能であること、そしてもちろん、業界をリードするコンポジットツールであるため、一緒に仕事をしてくれるアーティストを探すのに苦労しないことなどが挙げられます。」
短いながらも心に残るこのシーンに見て取れるTerritory Studioの細部へのこだわりと、観る者を1930年代のLAへとタイムスリップさせてしまう見事なシークエンスは、素晴らしいの一言に尽きる。
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