SCADの未来のクリエイター教育
ハイクオリティなキャラクターや観客を魅了するプロットなど、インパクトのあるアニメーション制作で名高いサバンナ芸術工科大学(SCAD)。
SCAD Animation Studiosの創立者でアニメーション学科長のChris Gallagherは、SCADは普通の大学ではない、と言う。「監督、ストーリーなど、あらゆる面においてクリエイティブのマネジメントを100%学生が行なっているのです」。
Disney Launchpadプロジェクトからヒントを得たSCADが取り組んでいるのは、実際のスタジオと同じような環境での作品作り。新入生からVFX、イラストやコミックスを学ぶ学生など、誰でもプロジェクトごとに履歴書とデモリールを提出して希望する役割に応募することができ、その中から優れた人材が選ばれる。
「特に成長が見られる学生にプロジェクトの監督の役割を与えます。単に通常クラスの課題をこなすだけでなく、専門とは異なるスキルを磨くことで大きな成長を遂げることができるのです」。
SCADの学生向けスタジオでは現在5件のプロジェクトが進行中で、さらに2件の新しいプロジェクトも控えているという盛況ぶりだ。高い評価を受けたスタジオの最新作『The Pope’s Dog』について、Chrisに話を聞いた。
プロジェクト制作
SCADでは、学生のアイディアをもとにした作品制作を学生とともに行なっており、『The Pope’s Dog』も例外ではなかった。当初のアイディアは、ホワイトハウスからイタリアのバチカンに移り住んだ犬の災難を中心としたシンプルなものだったという。
学生の成長を促すために、Chrisは各プロジェクトに技術的な課題を設定するが、この作品に課せられたのは、Sergio Pablosのアニメーション『Klaus』を参考にした、いきいきとした2Dアニメーションを作成すること。
「この課題を課したのは、一般的に学生が制作する2Dアニメーションは、とかくフラットなものになりがちだからです。ストーリーいかんに関わらず、優れた映像言語を用いてストーリーを伝えることで、コンフォートゾーンを抜け出し成長してほしいと考えました。また、他とは違ったユニークなことを試してみたいという思いもありました。コース主任でこのプロジェクトの責任者であったJohn Webberは、当時VFX部の学生で、卒業後はコンポジターとしてThe MillやFramestoreで働いていたNoah Catanに声をかけたのです」。
「Noahは、Nukeで多数のプラグインを使用して、フラットな手描きの2Dアニメーションを立体的に見せるプロセスを、約1年かけて設計・開発しました。非常によくできたプロセスだっただけでなく、アニメーターにとっても習得しやすいものでした」。
「彼はNukeを精査し、それを使用して進行中の作業の改善を行いました。まさに、この作品の立役者です。他の学生とはまったく違うやり方で、Nukeをとことん使いこなしました。プロのプロジェクトでもあまり見たことがないですね」。
「この映画が完成したのはNukeのおかげであり、学生たちの純粋な意志の力によるものです。学生がプロジェクトを完成させることができたのも、Nukeのフレームワークによるもので、Nukeなしではなし得なかったでしょう」。
SCADとNukeのパートナーシップ
学生たちがクリエイティビティを最大限に発揮し、素晴らしい作品を創り出すためには、信頼できるソフトウェアが不可欠だ。Chrisはこれまで、Digital Domain、Wētā FX、Sony Pictures Imageworksで仕事をした経験を持つが、そのすべてでコンポジットにNukeが使用されており、知識を持ち合わせている。
「適切なワークフローと方法論を提供したいと考えています。単にソフトウェアを使うだけではなく、どんな企業でも通用する能力を身につけてほしい。Nukeに重きを置くのはそのためです。Nukeが業界標準のコンポジットソフトウェアであるから、教えるのです」。
非破壊のワークフローは柔軟性を持った作業進行を可能とし、ノードベースシステムによって、迅速かつ容易に問題解決を図り、ショットに適用されている機能を明確に把握することができる。
「Nukeは真っ白なキャンバスのようなものなので、最初は戸惑うかもしれません」とChrisは言う。「アーティストにとってもっとも恐ろしいのは、空白のページです。作家であれば、どうやって物語を始めるか。画家なら、何を描くか。Nukeも同様で、何のために使おうとしているのかをしっかりと理解している必要があります。Nukeは、クリエイティビティの可能性を探ることができるツールです。実写やCGのさまざまな側面を融合させたいのであれば、Nukeは最適なツールです」。
その上で、ChrisとSCADは、Nuke習得の有益性を学生たちが理解できるように、適切なアプローチでNukeを教えるようにした。その方法のひとつが、学生たちがすでに使い慣れているPhotoshopのようなソフトウェアと比較することだ。そうすることで、基本を理解した上でより複雑な部分を把握し、Nukeの有益性を理解しやすくなる。ソフトウェアに適用されている概念を教えることが重要なのだ。
プロジェクトが始まると、キャラクター、背景、セットなど、用意されたさまざまな要素をどう組み合わせるかということからCGを学び始める。異なるレイヤーを一緒にレンダリングする方法、プロジェクトのさまざまな要素の活用法について学び、Nukeの機能性を理解する。単にボタンの押し方だけではなく、問題の解決法やNukeのクリエイティブな使い方を教え込むことで、学生はよりハイレベルな作品作り、手持ちのツールを活用したよりスマートな作業が行えるようになり、これは、企業が採用時に重視する点でもある。
「ハイレベルなアニメーションスタジオでは必ずNukeが導入されているため、そうしたスタジオへの就職を考えるのであれば、Nukeの習得は学生にとって有利になりますし、必要条件と言ってもいいでしょう。実際に就職した後も、NukeでスラップコンプやCGのプリビズと混在するキャラクターのロト作成などができれば、かなりの強みになります」。
未来を担う人材の育成
VFXの世界に足を踏み入れる前に知っておくべきことを全て学ぼうとする学生にとって、新しいソフトウェアを習得することは怖いことかもしれない。しかし、楽しみながら可能なかぎりあらゆるものにチャレンジし、自分にとって最適なものを見つけることが重要だ。
「最初は、まずはNukeで遊んでみればいいと思います。データ管理について理解したり、複数オブジェクトの同時取り込みのやり方を学んだり、ただノードを眺めてその役割や作用を確認したり、ノードを読むだけでも良いでしょう。ノード名はすべて、実写映画制作の世界で使われる用語に基づいたものです。映画制作者を目指しているのですから、専門用語やその用法を理解することが重要です」とChrisは説明する。
さらにChrisは続ける。「もうひとつ、学生が覚えておくべき重要なことは、秘密を共有することです。学生は自分が取り組んでいることについて極端に隠す傾向にありますが、Nukeの使い方を学び、それをクラスのみんなと共有すれば、周りの学生やアーティストからあなた自身も必ず学ぶことがあるはずです。そうすれば、就職の面接でNukeについて違った観点から話ができ、それが採用の決め手になることだってあるのです。それは、Nukeの使い方を理解して他のチームメンバーをサポートできる、チームプレイヤーであることに他ならないのですから」。
質問することを恐れないことも、学生にとっては重要だとChrisは話す。「企業で仕事をする際には、個々のショットやタスクを請け負うだけでなく、クリエイティブな課題解決のために、チームの他のメンバーと互いに協力しながら仕事をすることが求められます。質問すれば30分で片付く仕事を5時間もこねくり回すより、質問した方がずっと喜ばれるはずです。学生は最終的な結果だけを見せたがる傾向がありますが、時間を無駄にするのではなく、プロジェクトのビジョンに沿っていることを示す方がよっぽどいいと思います」。
SCADの特徴のひとつに、学校が提供するトレーニングがある。ディレクター、VFXスーパーバイザー、アニメーションディレクター、番組制作者など、将来のクリエイティブな課題解決を担う人材育成を行なっているだけでなく、学生のスキルや希望するキャリアに応じた適切なスタジオを利用できるようにもなっている。大手制作会社との良好なコネクションを持つSCADには、企業やFoundryのようなソフトウェアベンダーが訪れて、学生に直接会い、彼らの制作中の作品を見ることもある。
「制作会社の方々がSCADを訪れると、非常に結束力が強く、熱心な学生たちが部屋を埋め尽くすのを目の当たりにします」とChrisは言う。「企業が何度もSCADに足を運んでくれることを非常に嬉しく思っています。秋学期にSCADを訪れて、来年の4月に作品を見せるのが待ちきれないと言っていた学生たちに、実際に6ヶ月後に会ってみると、みなさんがその成長ぶりに非常に驚かれますよ」。
学生に実際のスタジオと同じような環境を提供し、実践的な教育を確保するSCADの取り組みは、素晴らしい結果を生み出している。VFX業界における教育の重要性は計り知れず、SCADのような施設が注目を集めることは、業界の未来が明るいことを示している。可能性溢れる学生たちの将来と、彼らの創り出す作品を見るのが楽しみでならない。