ディープコンポジティング技術が実現するクリエイティビティの解放
今日、クリエイティブな分野においてベストプラクティスや業界標準と言われるものの多くは、VFXスタジオやパートナーが厳しい制作課題に対応するために、知識の共有や技術協働に意欲的に取り組んできた結果確立されたものです。作業時間の短縮を実現する革新的な技術のひとつであるディープ コンポジティングは、WetaやAnimal Logic、ILM、Peregrine Labsなど業界の先駆的企業とFoundryの協働によって開発され、過去10年間にわたって映像業界全体に浸透したもので、Nukeに搭載されたことにより広く商用利用されるようになりました。
近年ではアクセス性の向上により、 作業効率性の改善や制作サイクル後期における変更への柔軟な対応を図ろうとする中規模スタジオにも普及しています 。技術的制約からの解放が強く求められるなか、ディープ コンポジティングは制作現場に比類ない柔軟性を提供し、制作プロセス全般における独創的な芸術性の表現を可能にします。
コンポジティングを一変する全く新しい手法
最終工程で変更が生じた場合、レンダリングをやり直しせざるを得ない従来のフラット コンポジティング技術とは異なり、ディープ コンポジティングは、よりパワフルで、作業の終盤においてもデプスの詳細な制御が行える表現力の高いフォーマットを使用しています。ディープデータには、ピクセルごとに異なるデプスに、カラーデータやカメラからの相対深度、不透明度などのピクセル単位の情報が格納された複数のサンプルを含めることができます。
「デプスの変更が多いショットや、デプスが重なり合う半透明のエレメントについて、ライティング時の描画の順番を前もって決めたくない場合など、非常に便利です。」Foundry CTOのJon Wadeltonは言います。
例えば、煙が充満しているシーンにCGキャラクターを置く場合、通常であればホールドアウトマットを使用してVFXを作成し、キャラクターの前後に煙が立ち込めるようにするためには、煙とエレメントを同時にレンダリングする必要があります。この方法は、ショット全体の中での見え方を確認せずにエレメントとライティングを配置しなければならないため、表現方法としてはきわめて限定的になってしまう可能性があります。
「ディープ コンポジティングでは、ライティングを切り離してレンダリングが行える特別なフォーマットによって、コンプ時にエレメントを合成することができます。」Wadeltonは言います。「間に配置するエレメントを気にせずに煙だけをレンダリングして、コンプ時にいとも簡単に合成することができるのです。」
デプスの変更などのエレメントの配置調整はあとから行え、レンダリングをやり直す必要がないため、コンプ時に合成するエレメントが異なるZデプスで複数重なりあっているような場合には、そのボリューム形態にかかわらずきわめて効果的な手法です。ディープコンポジティングを使用せずにこれを実現するには、ホールドアウトで合成時の描画順を指定する必要がありますが、変更が生じた際にはレンダリングをやり直さなければなりません。
ディープコンポジティングの場合、従来のコンポジット手法に比べてデータ量はかなり重くなりますが、その分柔軟性と操作性が向上します。Weta Digitalではすでにディープコンポジティングがパイプラインに定着しており、他の大手スタジオもこれに続こうとしています。
増加する現場への導入
短納期の制作サイクルにおいては、より迅速に、かつ手間を省いて容易に作業を進めることが求められますが、ディープコンポジティングのメリットは生産性の向上だけではありません。
「ディープコンポジティングによって、コンポジターのクリエイティブな選択の幅はさらに広がります。」Foundryのコマーシャルプロダクトマネージャー Christy Anzelmoは言います。「 ディープコンポジティングは基本的に意思決定までの時間的余裕があり、コンポジターはより多くの選択肢を検討することができるため、シームレスで自然な合成映像を作り出し、ショットの完成度を高めることができるのです。
今日のVFXプロダクションでは、パイプラインの最終段階よりもクリエイティブプロセスの冒頭からコンポジティングが活用されており、従来にも増して多くの意思決定がコンプ時に行われています。今ではテクノロジーと処理能力の向上により、増加するデータを支障なく処理できるようになり、ディープコンポジティングがもたらす柔軟性に多くのスタジオが魅力を感じています。
「ディープコンポジティングにすっかり魅了されています。」 SFヒット作『ブレードランナー 2049』の制作において広範囲にわたりディープコンポジティングを使用し、映像を何層にも重ねてダイナミックな都市景観を作り上げた Atomic Fiction の VFX スーパーバイザー Seth Hill 氏は言います。「ボリューメトリックな実際のエレメントを何層にも重ねて、Nukeでしかなし得ないリアルで先端的な表現を実現しました。」
Blur Studioもディープコンポジティングを使用して『デッドプール』の素晴らしいオープニングタイトルシークエンスを制作し、レンダリングのやり直しを極力抑えながらエレメントの追加や削除に柔軟に対応しました。「アセットの追加も非常に簡単に行えましたし、ホールドアウトを使用しなかったので作業時間を大幅に短縮できました。」Blur StudioのCG スーパーバイザーを務めるSebastien Chort氏は言います。「アセットごとに適切なライティングでレンダリングを行ってからコンプに持ち込みました。」
Nukeにディープコンポジティングが組み込まれて以降、制作現場への導入が急速に進み、過去数年間で導入企業数はほぼ倍増しました。ディープデータの処理能力が向上し、多様な可能性を中規模スタジオでも活用できるようになっていることから、こうした状況は今後も続くものと思われます。
「ディープコンポジティングが業界全体に広がりを見せる中、ディープデータの処理速度の向上とアーティストの作業支援に寄与するツールの提供を図りつつ、Nukeのディープコンポジティング機能のさらなる強化を目指してまいります。」Christy Anzelmoは言います。