容易ではない小説の映像化
Frank Herbertの代表作『DUNE/デューン 砂の惑星』の映画化でCG/VFXの大半を担当したDNEGは、架空の惑星や巨大なセット、サンドワーム(砂虫)を再現し、伝説のSF小説を見事に映像化した。
多くのファンの期待を背に、制作チームには、フォトリアルなビジュアル表現を実現しなければならないプレッシャーがあったが、監督のDenis Villenueve氏、総合VFXスーパーバイザーのPaul Lambert氏、DNEGのVFXスーパーバイザーのTristan Myles氏とBrian Connor氏に率いられたこの大規模プロジェクトは、Foundryの合成ツールと制作チームのアーティスティックなマインドにより、見事、オスカーに値するVFXを生み出した。
DNEGのコンポジティングスーパーバイザーFrancesco Dell'Anna氏とDFXスーパーバイザーStephen James氏に、本プロジェクトへの取り組み、プラクティカルとデジタルのエフェクトのミックス、サンドスクリーンの使用、プロジェクトへの高い期待に応える壮大な名作SF作品の制作舞台裏について話を聞いた。
架空の惑星の制作
表現スタイルがかなり早い段階で確立されていたため、それをもとに、Dell'AnnaとJamesの両氏とDNEGの制作チームは、プラクティカルエフェクトとデジタルエフェクトを組み合わせた表現などについて、アイディアの検討を行った。
「多くの場合、プラクティカルエフェクトとVFXは使い分けられていますが、結果として、観客の没入感が削がれてしまうことも少なくありません」とJames氏は言う。「そこで我々は、スケールの大きなシーンも観客の目をくぎ付けにするような、説得力のあるショットデザインを目指しました」。
「ほとんどのVFXシーンでプラクティカルエフェクトをベースにしています。例えば、Ornithopter(オーニソプター)の着陸シーンでは、実際にヘリコプターが砂埃を舞い上げる様子を撮影し、砂埃がヘリコプターの周囲の光を遮蔽し拡散させる様子を調査しました。こうしたやり方は、CGエレメントの合成を一層難しくしてしまうこともあるのですが、プラクティカルなリファレンスにマッチさせればある程度の自由はあります。微妙な不完全さもすべて含めて、信じるに足るものを作ればいいのです」とJames氏。
Dell'Anna氏は次のように付け加える。「私が担当したシークエンスのひとつに、宇宙港への攻撃のシーンがあったのですが、現場で撮影した大爆発の炎のプラクティカルエフェクトをVFXの代用として使用したのは、暗い環境での炎の明るさを認識できただけでなく、輝き方、周囲の環境やキャラクターへの反射や光の回り込みについて理解する手がかりにもなり、非常に役立ちました。ライティングとコンポジットだけでは、あれだけ自然な表現を行うのは難しかったでしょう」。
サンドスクリーンの使用
フォトリアルな表現をより確かなものにするために、チームは、砂色をした「サンドスクリーン」を使用した。従来のブルースクリーンやグリーンスクリーンは、光の加減や前景に与える影響を考慮しないと不自然な映像になることがあるが、サンドスクリーンのおかげで自然な環境光が表現できた。
サンドスクリーンを使用することで、エッジの処理をする際、キャラクターや環境に自然な反射やカラーをもたらすことができ、異なるトーンやルミナンス、カラースピルにも効果的でした。
Dell'Anna氏によれば、「サンドスクリーンを有効活用するために、ワークフローを確立しました」という。「ロトとキーを使ってFGをプレートから切り抜いて、その部分をサンドスクリーンと同じ色で塗りつぶしてクリーンスクリーンのようにしてから、元のプレートで分割します」。
「結果は背景と乗算され、基本的には元の画像がBGに渡されることになります。ロトとキーで抽出したものは、すでにBGに乗算されているためディテールが含まれませんから、一番上に乗せるだけです」。
「サンドスクリーンの気に入っている点は、撮影監督が完全に光のコントロールを行え、なおかつそれを変更する柔軟性を与えてくれることです。コンポジターは前景があるべき状態であることが分かっているため、背景との合成に集中することができます。ショット計画の際には、あらゆるアプローチを考慮する必要がありますが、サンドスクリーンはこの作品の、広く開けた屋外の自然なライティングには非常にうまく機能しました」。
Nukeを活用した複雑なエフェクト表現
Dell'Anna氏もJames氏も、本作の制作に携わる前からNuke に精通していた。本作で使用された唯一のコンポジティングツールとして、Nukeは日常的に広く活用され、DNEGのパイプラインの根幹として位置づけられるようになった。
「DNEGがNuke上に構築した独自開発ツールは、日々の作業を容易にしてくれています」とDell'Anna氏は言う。「通常は、ショットの組み立てに必要な要素を自動的に読み込むテンプレートを作成し、コンポジターが作業を開始するための基本スクリプトを提供します。また、プレートのノイズ除去やipgの作成、rotoからのPremultレイヤーの作成など、繰り返し行われる作業の一部も自動化しています。こうした自動化にはNukeが大きく関わっています」。
本作でチームが直面した最大の課題のひとつは、コンポジティングで対処しなければならない膨大な量のディープデータだった。ほぼすべてのショットにディープパスがあり、大きなファイルと大量のプリコンプの処理にNukeを多用した。その他、この大規模プロジェクトでは、シークエンスごとに何かしらの課題があったという。
Dell'Anna氏は、自身が担当した中でも最も複雑なエフェクトの一つがシールドのエフェクトだったと言う。「設定は、rotoとタイムワープのテクニックを使って、すべてNukeで構築しました。簡単に言うと、前後どちらかのフレームをいくつか選んでタイムディストーションにかけ、トランスフォームとグレーディング処理を施して、最終的なルックを完成させました」。
「エフェクトのプロシージャル表示が上手くいかなかったことで難易度が上がってしまったのですが、結局、ハンドペイントでフレームごとに表示し、衝突接点から自然に消散していくように表現しました。ルックデブの初期段階のサポートを私が行い、シークエンス全体と最終ルックは最終的にもう一人のコンポジティングスーパーバイザーが担当しました。同様のロジックを宇宙港への攻撃シーンでも展開する必要がありましたが、宇宙船のシールドエフェクト表現には3D FXパスを使用しました」とDell'Anna氏は続ける。
「ハルコンネン家の攻撃シークエンスや要塞アラキーンのシークエンスでは、アニメーション、群衆、FX、エンバイロメントの各チーム間で何百ものショットの大規模な調整を行いました。これらは真夜中のシークエンスだったため、ライティングとコンポジティングチームは、月明かりや爆発のライティング設定だけでなく、大気と煙の間の空間を拡散する光の様子をリアルに表現する必要がありました」とJames氏は話す。
「テンプレートをロードすると、全部門のスキャン、roto/prep、グレーディング、リファレンス、カメラ、CG等を自動的に読み込むことができるシステムを開発しました。これにより、ショットの技術的なビルドの多くを処理できるため、アーティストはショットのクリエイティブな側面に素早く取りかかることができます」とJames氏は説明する。
オスカーに値するVFX
James、Dell'Annaの両氏をはじめとするDNEGの制作チームは、フォトリアルなエフェクトを駆使してストーリーに命を吹き込み、アラキスを駆け回る登場人物たちを圧倒的リアリティで描いた。アカデミー賞オスカーに輝くのも納得の出来栄えだ。第2作の公開を心待ちにする一ファンとして、次作のVFXがどのような高みに到達するのか、楽しみでならない。
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