Katanaによって制作プロセスの効率化を実現
多くのスタジオにとって、新しいクリエイティブツールの導入は、これまでのワークフローを一旦立ち止まって評価、刷新するきっかけを与えてくれる。Foundryのルックデベロップメント/ライティングツールであるKatanaを導入したFutureWorksの場合も 例外ではない。
インドに拠点を置き、『ウエストワールド』、『ストレンジャー・シングス 未知の世界』、『ロスト・イン・スペース』など、世界的なストリーミングヒット作品のVFXを幅広く手がけているFutureWorksは、最近Animation Express VAM Summit Awardを受賞したインドの時代劇『The Empire』で、初めてKatanaを大規模に導入した。
「Katanaの導入によって、ショット作業のプロセスが改善、円滑化され、膨大なキャッシュデータを従来よりも高速に扱えるようになったことで、フォトリアルなレンダリングに重点を置き、最大限のクオリティを実現できるようになりました」とライティング/ルックデベロップメントTDのPramod Khairnar氏は言う。「Katanaは扱いやすく、制作ワークフローを最高レベルに保つことができるので、チームの能力を思う存分活かすことができます」。
FutureWorksのパイプラインリードであるSiddhartha Basu氏は、次のように話す。「Katanaは我々の制作プロセスにシームレスに溶け込み、『The Empire』の成功以来、すべてのプロジェクトにおいて日常業務に欠かせないものになっています。当初は、背景やキャッシュされた破壊シミュレーション、キャラクターアニメーションのレンダリング等に使用していました。その後、クリーチャーやキャラクターのヘアーやファーのシミュレーション、ボリューム、パイロ、水のシミュレーション、群衆等でも使用するようになりました」。
Siddhartha Basu氏と、FutureWorksでマネージングディレクターを務めるGaurav Gupta氏に、エンドツーエンドの映画制作をリードするFutureWorksの地位の確立、また、『The Empire』の制作においてKatanaが担った役割について話を聞いた。
Katanaの採用
Foundryのセミナーやケーススタデイを通じてKatanaの利点を知ったFutureWorksは、自社のパイプラインでKatanaの評価を行うことにした。
「ここ数年、FutureWorksの躍進に伴って、タイトな作業スケジュールの中でますます大規模で複雑なプロジェクトに取り組む機会が増えています。この評価で大規模データに対するKatanaの処理能力が実証され、採用を検討する大きな理由になりました」とBasu氏は言う。
新たなツールの導入時にはよくあることだが、すでにスムーズで効率的なパイプラインに新しいテクノロジーを統合することに、FutureWorksは当初、懸念を抱いていたが、すぐにKatanaを使用することによるメリットや、特にショット数の多いシークエンスでの作業効率の向上を実感したという。
Basu氏は次のように話す。「Katanaの導入については、非常に満足しています。テンプレートやツールを設定することで、ルックデベロップメント作業を加速させ、驚くほど短時間でシークエンスを迅速にレンダリングし、納品の最終段階までクリエイティブな変更を行うことができます。また、Katanaのディファードローディングによりシーンのロード時間を劇的に短縮できたことについては、特に満足しています」。
Katanaの導入以前は、大規模なCGデータセットを扱う作品ではシーンのロード時間が長く、ビューポートが反応しない、クラッシュするといった問題に直面し、これまでいくつもの対策を講じてきた。Katanaではこうした課題への対処が容で、レンダリングワークフローの自動化に注力しつつ、他の障壁も取り除くことができた。さらに、FutureWorksでは、Foundryの他のツールも活用してワークフローをさらに強化させた。
Basu氏によれば、「モデリング、リギング、レイアウト、アニメーションにはMayaを使用しています。データはキャッシュされ、Mariでテクスチャリング、Katanaによるルックデベロップメントとマルチショットテンプレートを経てから、Nukeのプリセットグラフに送られます」という。
「テンプレートによって最小限の労力で多くのバージョンを処理できるため、ツール間の相互運用性は非常にシンプルです。また、現在はUSDを主なシーン記述形式として活用し始めており、その周辺ツールの構築に開発の重点を置いています」。
『The Empire』の制作
短納期かつクリエイティブな野心が溢れる作品で、新しいテクノロジーを活用することはただでさえ困難だが、FutureWorksの制作チームは、『The Empire』のオープニングの戦闘シーンに登場するCGIの象に象徴されるような、非常に複雑なシーンに至るまで、最高のクオリティを追求した。
Basu氏は次のように話す。「他のエピソードにも、かなり難しい戦闘シーンがありました。CGIの馬のクローズアップを多用したアクションシーンにスケール感を持たせなければならないものや、宮殿のセットの上でのアクションシーンでクライマックスには地震がおこる、完全な360度のグリーンスクリーンのシークエンスなどでは、まさにKatanaが力を発揮し、我々の持つ力を増大させてくれました」。
KatanaによってFutureWorksのポテンシャルはより一層高まり、クリエイティブの限界は広がった。厳しい納期の中、少人数で大量の作業をこなすことが可能になったという。
「フェラガナ渓谷の地震のシークエンスで作成した198の最終ショットは、キャッシュされた大量の瓦礫のデータから成り、インスタンス化された木の葉や家屋など街や谷のすべてのデータも含め、ポリゴン数は数百万を超えており、多くのアセットに最大100タイルのUDIMテクスチャが用いられていました。このシークエンスを担当した2人のライティングアーティストは、2人ともKatanaの初心者でしたが、1週間足らずで作業を完了させることができました。本当に驚くべきことです。カブールの街のシークエンスでは、ライティングアーティスト1人で、レイアウトとそれに伴うアップデートを行い、納品前の3日間ですべてのショットを仕上げました」。
こうした努力が実を結び、FutureWorksの制作チームは、『 The Empire』のVFXでIWM Digital AwardとAnimation Express VAM Summit Award 2022を受賞した。
「すべてのショットとシークエンスは、才能あるアーティストたちの努力の賜物です。素晴らしい作品とともにノミネートされたことは非常に光栄なことですし、受賞までできて本当に嬉しいです」。
Katana導入のメリット
Basu、Gauravの両氏とFutureWorksの制作チームは、Katanaの導入を検討している人たちに次のようなアドバイスをしている。
Basu氏によれば、「チームで初めてKatanaを使用する場合、最初のうちはプロシージャルな工程を受け入れるための時間が必要」だという。「パイプラインのセットアップに要する時間はペースの速い作業環境において不安に感じられるかもしれませんが、これまで必要とされてきた最適化の苦労やデバッグ作業を行うことなく、膨大なアセットデータと大規模かつ複雑なプロジェクトにも対応できることを考えれば十分割に合うものです」。
「ノードベースであるKatanaは、プロジェクトのワークフローを円滑化するのに適しています。経験豊富なライティングアーティストが初期段階でノードツリーを構築したり、テクニカルディレクターがマクロやツールを使って自動化の仕組みを作ることもできます。アセットのメタデータや命名規則、マテリアルアサインのタグ付け、シーンの構成とレンダリング設定、ルールベースのルックデベロップメント、ライティングのテンプレートなどを活用することで、プロジェクトに依存しない汎用性の高いひな型を作成し、効率化を図ることができます」とBasu氏は言う。
最後に、FutureWorksのCGスーパーバイザーであるSuresh Talupla氏は次のように話す。
「レンダリングパイプラインに革命をもたらすKatanaを導入し、効率化された作業環境のもと、迅速なイテレーション、及びアセット制作と同時進行可能なルッデブ工程を構築することができました。そしてFutureWorksはキャラクターや作品そのものに命を吹き込むことができるようになったのです」。