白組が描く『陰陽師0』のVFX世界 - Katanaが支えた壮大な歴史ファンタジーのVFX制作
1974年にテレビCMに特化したアニメーションスタジオとしてスタートした白組は、日本のエンターテインメント業界を牽引する存在として、設立以来、つねに新しい映像表現を求めて時代のニーズに対応すべく進化を続けてきた。
特撮映画やアニメーション作品、テレビCM制作、さらにはハリウッド映画のVFXまで幅広い分野でその技術力を発揮しており、『シン・ゴジラ』や『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズなど、日本国内外で高く評価されている作品に携わってきた。最新作である歴史ファンタジー映画『陰陽師0』では、豊富なVFXとともに、古典的な日本の美意識を取り入れた美しいシーンで観客を魅了した。そのハイクオリティなVFXは、壮大な世界観の表現に大きく寄与しており、高い評価を得た。
その背後にあった最先端の技術、クリエイティブな努力について、本作のVFXスーパーバイザーを務めた吉田裕行氏と、ライティング/コンポジットリードの石田裕太郎氏に話を聞いた。
Katanaの導入
白組のKatana導入は約4年前に遡る。アニメーション長編映画のCG制作のワークフローを検討する中で、石田氏が個人的に検証を進めていたKatanaを使ったワークフロー提案を聞いた吉田氏は、Katanaの本格導入を決断した。
「従来のワークフローの問題点やKatana導入のメリット、費用対効果をプロデューサーにプレゼンし、社内の承認を得ることが最初の体制作りでした」と吉田氏は振り返る。
導入時にはいくつかの課題も存在した。石田氏は、「Katanaはノードベースでシーンを構築するため、従来のMayaや3dsMaxとは異なる操作方法に慣れる必要がありました。また、DCCツールからAlembicを書き出し、Katanaに受け渡すフローも初めての経験でした」と話す。
各工程で作成されるデータはKatanaに集約されるため、チーム内ではサポートツールを開発し、効率的なワークフローを確立するための工夫が求められた。具体的には、データの変換や処理をスムーズに行うためのツールを開発、各工程からのデータの仕様や作業フローを確立する必要があったという。特に、大規模なプロジェクトにおいては、データの一元管理や効率的な作業分担が重要であり、これを実現するための体制整備が求められた。
Katana導入のメリット
Katanaの導入によって得られた具体的なメリットについて、石田氏は「一つのシーンファイルで大量のショットをライティングできるので、少ないスタッフ数で多くのショットを処理できるようになりました」と話す。
複数にわたるショットのライティングを一つのプロジェクトファイルで管理することができるKatanaでは、上流で設定されたライティングを継承できたり、ショットカメラを簡単に切り換えながら作業できるので、スタッフの手間を大幅に削減できる。これは、限られた人的リソースで多くの作業をこなさなければならない場合、特に重要なポイントだ。
また、吉田氏によれば「Katanaで各シーンのベースとなるノードを構築し、部分的に共有することで、Katanaの経験が浅くても最小限の学習時間でピンポイントのオペレーションでライティングできるようになった」という。
この共有性と学習の容易さにより、新しいツールの導入による学習コストを最小限に抑えつつ、制作チーム全体の効率が向上し、高度な技術を要する作業においてもスムーズな対応が可能になった。
『陰陽師0』のライティング/ルックデブ
『陰陽師0』の制作体制は、白組内の混合チーム(最大30名)と協力会社9社で構成され、VFX制作期間は約5カ月強に及んだ。
ライティング/ルックデブ工程では、CGを用いたシーン数が多く、作業アプローチはフルCGやVFX等、多岐にわたる。そのためシーン毎のイメージを監督と共有しつつ、最終画の承認を得るプロセスでは慎重さが要求された。
「特に漏刻部屋のボリュームフォグや水表現においては、スケール感の表現に苦労しましたが、Katanaのノードベースアプローチにより、さまざまなパターンをすぐに確認でき、トライアンドエラーが容易でした。加えてアセットの更新が簡単なため、ライティング時にアセットの更新が発生しても対応に苦慮することはなかった」と石田氏は言う。
特に役立った機能として、GSV (Graph State Variables) によるマルチショットライティングと LiveGroupsを挙げた石田氏は、「GSVを使うことで20カットほどのライティングを1プロジェクトファイルで完結できました。そしてLiveGroupを利用することでレンダー設定やその変更等、プロジェクト全体にすぐ共有可能でした」と話す。
GSVにより、各ショットのライティングを一元管理し、全体の統一感を保ちながら効率的に作業を進めることができた。また、LiveGroupを活用することで、レンダー設定やシーンの共通要素を即座に共有し、反映させることができるため、作業の一貫性と効率性が向上した。
吉田氏は、「作品の導入部とクライマックスに登場する漏刻部屋のシーン構築に、Katanaが大いに貢献しました。カット数が多く、登場シーンごとにライティングが異なるため、Katanaの自由度に救われました」と評価する。
特に、多彩なショット設定に対応する柔軟性が高く、各カットの要求に応じた最適なライティングを実現するうえで、Katanaが非常に大きな役割を果たした。
「Katanaを導入することで効率的に作業を進められたのは大きな成果でした。今後も作業効率化とそれに伴うより良い絵作りのために、Katanaの導入を積極的に検討していきたい」と吉田氏は続ける。Katanaは、制作の効率化だけでなく、クリエイティブな表現の幅を広げる上でも、有用性が高いといえる。
Katanaの導入を検討するプロダクションへ
最後に、Katanaの導入を検討するプロダクションに対して、石田氏は次のようにアドバイスする。「大規模なプロジェクトを扱うことが多く、重いデータの管理に苦労しているプロダクションや、ライティング、レンダリングをより効率化したいと考えているプロダクションには、Katanaの導入をお勧めします」。また、吉田氏は「Katanaに興味はあるが、従来のワークフローを変えていくことに不安を感じているプロダクションにこそ、勧めたい」と付け加える。
『陰陽師0』のVFX制作において、Katanaはその柔軟性と効率性を最大限に発揮し、作品の視覚的な魅力を引き出すのに大きく貢献した。限られたリソースを最大限に活用し、効率的に高品質な映像を作り出すことを支えるKatanaは、制作チームのクリエイティブなビジョンを具体化する重要な役割を果たした。今後も白組とKatanaの連携が新たな映像表現の創造に貢献し続けることを期待したい。
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