Artist Spotlight: Jörn Meyer

アーティストの好奇心と情熱が生み出すVFX

フリーランスのコンポジター、ポストプロデューサー、 VFXスーパーバイザーとして自由に仕事をするJörn Meyer氏は、30年前、ハンブルクの小さなポストプロダクションSpeckert & Partnerで研修生としてそのキャリアをスタートした。

「Speckert & Partnerは、ドイツで初めての完全なデジタルポストパイプラインを持っていました」とMeyer氏。「当時のフルデジタルとは、D1やデジタルベータカムのようなデジタルビデオフォーマットで、エディットコントローラーとリアルタイムエフェクトハードウェア(この場合はGrass ValleyのCadenzaとKaleidoscope)を使って編集することでした。その後、ノンリニア編集が導入され、オンラインフィニッシング用にHAL(Heuristically programmed ALgorithmic computer)と、さらにその後Editbox(いずれもQuantel)が採用されましたが、これが現在理解されているような意味でのコンポジット/フィニッシングにつながりました」。

VFXのキャリアにおける成功の原動力、またVFXを選択した理由について尋ねると、「まだ存在しないものを視覚化することに大きな魅力を感じたから」と言う。

Jörn Meyer and Camera

「私はとても技術的で未来志向な人間で、SFが大好きなのですが、VFXは、少なくとも部分的には、未来を予言するものだと思っています。人類のユートピアやディストピアを視覚化し、見るものを魅了します。私を突き動かしたものを一言で言うとすれば、それは”好奇心”ですね」。

仕事を趣味としながらカヌーやスケートボードを楽しむMeyer氏。自身のキャリアの歩み、日々のポストプロダクション作業にNuke Studioを使用する理由やその活用法、VFXの今後について話を聞いた。

Q: 仕事に集中するうえで役立っていること、集中力を高め、アイデアを明確にするためのルーティンはありますか。

A: コーヒーと良い音楽、するべき作業を精査することですね。

Woman and Green Screen
Woman in Commercial

Q:研修生を経て、その後の進路はどのようなものだったのでしょうか。

A: VFXの需要が高まるにつれ、撮影計画を立てて、現場でVFX撮影のスーパーバイザーを務めることが増えていきました。90年代末には、当時ドイツ最大のポストプロダクションサービス会社であったDas Werk(当時の社名はBildwerk)に転職しました。すぐにDiscreet Logic Flintを導入し、間もなくしてInfernoにアップグレードしました。当時、Digital Domainが開発してまだ製品化されていなかったNuke にはすでに目をつけていました。

2000年頃、ハンブルグでThe Posthouse(現在のOptix)を共同設立し、そこで初めてNukeを使用しました。2004年から10年間は、ハンブルグの企業でVFXスーパービジョン、コンポジット、パイプライン開発に、一部はフリーランス、一部は社員として携わりました。2014年まで勤務していたPlexus Productionsでは、コマーシャルビジネスに適したクラウドベースのアセットマネジメントシステムを開発し、IBCのFuture Zoneで注目されました。2014年半ばからは再び独立し、インターネットを通じて海外のアーティストとのネットワークでVFXやポストプロダクションをやっています。

Q: 最初に手がけたプロジェクトはどんなものでしたか。

A: プラリネのCMのクリーアップ作業でした。さくらんぼが液体の中に落ちていくCMだったのですが、当時は、ハードディスクに動画を保存することができなかったので、ビデオテープから一コマずつフレーム(PAL)をPCのRAMに読み込ませ、クローンもできなかったと思うので、フレームに何らかの方法でペイントしてテープに記録し直さなければならず、非常に面倒な作業でした。さらに、結果をレビューする際には、テープをジョグしなければなりませんでした。

Jörn Meyer Quote

Q: 特に誇りに思っているプロジェクトについて、その理由を教えてください。

A: CEO、CTO、ポスト/VFXプロデューサー/スーパーバイザー、コンポジター、コーダー、経理、税務処理などビジネスをする上で必要なあらゆることを、家族との時間を十分に確保しながら、1人でこなしていることについては誇りに思っています。

事務的なことだけでもアウトソースすべきだと思いますが、そのおかげで独立心が旺盛で、柔軟性があり、仕事上の決断も早いので、クライアントにも喜ばれていますし、価格も良心的に提供できます。技術的なセットアップについては、できる限りシンプルにしようと常に心がけていますが、非常に難しい場合もあります。もっと良い解決策があると確信したときは、コンセプトを捨てて一から考え直すことにも抵抗がありません。

Q: 普段のワークフローについて教えてください。

A: タスクによって異なりますが、グレーディングされ、選択されたテイクがくる単純なオンライン作業の場合は、以下の通りです。
(自動)コンフォーム>トランスコード、最終的にダウンレゾ>プレートとコンプの準備>作業の分配>レビュー/イテレーション>フォーマットの適用>マスタリング

これらの作業はすべてNuke Studioで行われ、ほとんどのプロセスで独自の標準テンプレートが定義されています。このソフトウェアのオープン性は、私にとって大きなメリットです。例えば、数回クリックするだけで、プレートをEXRとして適正な解像度でレンダリングしたり、外部のアーティストにファイル構造でショットを配布したり、対応するコンプを同時に作成したり、その結果をタイムラインに戻しやすいバージョンとして取得したりといったことをPythonスクリプトで自動化することができます。私のファイル構造では、プロジェクトのアーカイブや復元も、基本的にコピープロセスなので簡単です。このように、面倒な作業を単純化して効率化を実現することができます。

On set - Green Screen

Q: 長年にわたり、プロジェクトごとに作業方法やワークフローは変化しましたか。

A: 基本的なワークフローについては、これ以上シンプルにすることはできないと思うので、ここ数年変わっていません。でも、仕事をしているときは、多くの時間を割いて何をどのように改善できるかということを考えています。フォルダー構造については長年悩みました。ファイルフォーマットやマテリアルの受け渡し時に使用するチャンネルを見直すこともありますが、最近は、自動化などディテールが中心です。30年間のポストプロダクション経験を経て、最近になってPythonを学び始めたのですが、プログラミングを学ぶのは、学生時代にBASIC、その後機械語を学んで以来のことで、その楽しさを思い出しました。Pythonで最初に試みたのは、前途のように、外部アーティストとのやり取りを可能な限り自動化することです。

Q: CM/広告の制作と、長編映画制作の主な違いは何でしょうか。

A: 経験上、主な違いは時間のプランニングでしょう。コマーシャルビジネスでは、仕事をきちんとこなせるだけの時間はほとんど与えられませんし、ドイツの長編映画プロジェクトでは、ハリウッドレベルのVFXを作る予算はありませんが、クライアントのVFXに対する経験や理解によっても変わってきます。妥協も必要です。

Q: 広告プロジェクトにおいて、Nuke Studioはどのように役立っていますか。どのような問題解決ができるのでしょうか。

A: Nuke Studioは、私の日々のポストプロダクション作業における中心的存在です。私は何でもシンプルを心がけているので、ソフトウェア間の切り替えは少ないほうがいいのですが、Nuke Studioでは、コンフォームからマスタリングまで、基本的に他のソフトウェアに切り替える必要がありません。

Q: Nuke Studioを使い始めた時期とそのきっかけを教えてください。

A: 仕事で初めてNuke Studioを使ったのは2015年だったと思います。ハンブルク、ベルリン、デュッセルドルフにオフィスを構える大手ポストプロダクションの1つで、あるプロジェクトがありました。ACESを使用するはずだったのですが、当時の私には少し実験的な試みでした。主にリアルタイム再生とモニタリングに問題はありましたが、洗練されたカラーマネジメントが行えたので、Nuke Studioを採用したのは正解でした。幸い、再生とモニタリングは、それ以来ずっと改善されています。

Q: Nuke Studioへの移行についてはどうでしたか。

A: 私は長い間Flameを使っていて、とても気に入っていたのですが、ある時期からHenry/EditboxからFlame/Infernoに移行したときと同じように、「ブラックボックス的要素」に悩まされることが多くなりました。それに加え、機能が増えてくると、GUIのレイアウトも崩れてきました。Nukeの概念は非常にシンプルです。私見ですが、Nukeはきわめて洗練された機能を備えており、まさにスイスアーミーナイフのように自由自在に映像制作を行えます。Nuke Studioが登場し、もう他のソフトウェアを使う理由はなくなりました。

Man and Green Screen
Man in Commercial

Q: Nuke Studioの中で特に気に入っている機能について教えて下さい。

A: タイムラインからコンポジットに直接アクセスできるので、すべてが1つの場所に集約されて非常に便利です。

Q: 現在、フリーランスとして活動されていますが、特に仕事をしてみたい業界はありますか。

A: 特に特定の業界と仕事をしたいということはなく、あくまでも仕事の内容ですね。

Q: フリーランスとして働くことの長所と短所は何ですか。

A: 「フリーランス」という言葉が示すように、私にとっての最大のメリットは、自由であることです。労働時間や休日の過ごし方に始まり、少なくとも技術的には、仕事の進め方を自由に決められること、クライアントを選ぶことができることなどが挙げられます。一方で、正社員であればやらなくてもいいこと、しなくてもいい決断に迫られることもあります。自由でいられなくなるような状況に陥らないためには、財務管理をしっかりする必要があることは間違いありません。

Q: VFX業界を志すコンポジターやVFXスーパーバイザーに、何かアドバイスはありますか。

A: 好奇心を失わずにさまざまなことに挑戦し、自分を信じること。心身の健康を保つことを忘れないでください。

Q: VFX業界の未来をどのように見ていますか。また、長期的に続くと思われるトレンドはありますか。

A:いつの時代にも、大革命と謳われる新しいテクノロジーが存在してきました。そのすべてが実現したわけではありませんが、AIがゲームチェンジャーになると信じています。一朝一夕にはいかないでしょうが、人間と同じように普遍的なものなので、徐々にあらゆる分野に広がっていくでしょう。

 

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