あらゆるクリエイターに開かれたVFXへの道
Kofi Opoku-Ansah氏とDaniel Mark Miller氏が共同ホストを務めるThe VFX Artists Podcastは、さまざまなキャリアステージにいる幅広い職種のVFXアーティストにインタビューを行い、多用なVFXキャリアの道筋や機会にスポットを当てる。ゲストの歩みをひもとき、笑い話を交えながら、VFX業界への就職アドバイスや業界の仕組みの解説を紹介するなど、業界へのハードルを下げるのに一役買っている。
2011年にこの業界に入ったKofiは、大学でアニメーションを学び、The Mill、Framestore、Freefolk、 Glassworksでの仕事を通じてVFXのセンスを磨いた後、2018年初頭にフリーランスに転身。ロンドンやヨーロッパ各地の大手スタジオと、『シャン・チー/テン・リングスの伝説』、『ウィッチャー』シーズン2、『マレフィセント2』、『魔女がいっぱい』、『ウォッチメン』などの作品を手がけた。
Danielの業界への道のりは、自身も認めているようにはるかに長いものだった。メディアプロダクションを学んだDanielは、監督、脚本、照明の仕事を転々としたあと、英語を教えるためにイタリアに渡り、滞在中、自作の短編映画を制作したり、企業の仕事を少しずつ引き受けたりしながら、VFXのスキルを身につける。その後、VFXのオンラインコースを受講し、『グッド・オーメンズ』、『ベイビー・ドライバー』、『Yardie』、『ザ・クラウン』など数多くの大作に携わって現在に至る。
二人に、ポッドキャスト、これまで、そして今後のプロジェクト、作品制作におけるNukeの役割、VFX業界就職の秘訣などを聞いた。
お二人の出会いと、一緒に仕事をするようになったきっかけについて教えてください。
DM: おかしなことに、まだ直接会ったことがないんですよ!天気が良くなって、ロックダウンが終われば、すぐにでも会えるでしょうけどね。“出会い”のきっかけは、私がポッドキャストをフォローするようになって、LinkedInでKofiと話すようになったんです。私も似たようなポッドキャストのアイディアを持っていたのですが、Kofiの方が先に番組を始めた。Kofiに2人目の子供ができたときに連絡をくれて、番組を手伝って欲しいと言われました。2人ともフルタイムのVFXアーティストであり、親でもあるので、1人よりも2人の方が力を発揮できますからね。
KO: 会えたときには、記念撮影してお祝いしましょうね。
ポッドキャスト以外で、特に気に入っている作品やプロジェクトはありますか。
KO: 作品は子供のようなものですから、一つ選ぶのはとても難しいですね。自分が関わった作品についてはすべてに誇りを持っていますが、あえて一つを選ぶとすれば、マーベル映画『エターナル』のVFXでしょう。貢献できたことを非常に誇りに思っているプロジェクトの一つです。
DM: Matteo Garrone監督の『ほんとうのピノッキオ』は今でも大好きです。アーティストというのは、限られたリソースで素晴らしい仕事することに喜びを感じるものですから、芸術映画でもヨーロッパ映画でも、ハリウッドの主流から離れたものでも、VFX予算がある作品は期待が高まります。その他、退職前にFramestoreで最後に携わった作品ではこれまでにない新しい経験ができ、詳しくは言えませんが、非常に面白い体験になりました。
ポッドキャストのゲストはどのように選んでいるのですか。
DM: さまざまですが、よく知っている相手や一緒に仕事をしたことがある人の中から人選しています。他の人から紹介してもらう場合もありますし、ソーシャルメディアでフォローしている人に出演を依頼することもあります。最近では、番組で語りたいという人たちの方から連絡をもらうようになり、とても嬉しく思っています。
KO: トピックを決めてから、それに相応しいアーティストを探すこともありますが、年功序列や専門に関わらず、多用なアーティストを取り上げて紹介するようにしているので、常に素晴らしい才能を持ったアーティストとの有機的な出会いがありますね。
ポッドキャストでゲストにする質問で一番好きなもの、またその理由について教えてください。
DM: キャリアのきっかけについて聞くのが好きですが、その答えは一つとして同じものはありません。皆様々、違った道をたどってこの業界に入ってきているので、面白い答えが返ってくるんですよ。
KO: 私もDanと同じく、キャリアのきっかけについての聞くのは好きですね。もう一つ、さまざまなバックグラウンドを持つアーティストに、自分のキャリア選択について両親がどう思っているかと尋ねるのも好きです。VFXやクリエイティブな進路は、伝統的なキャリアと比べると、一般的に将来が安定しないという考えから、子どもがクリエイティブな業界に入ることを思いとどまらせる親が多いというのは、とても興味深いことです。
これまで一番印象に残ったゲストについて教えてください。
KO: 一番最初のゲスト、Ace Rueleはとても印象に残っています。最初のゲストということもありますが、Aceは、仕事に対する情熱を持ったとても熱心なモーションキャプチャアーティストで、評価も高く、ゲストとして番組に迎え、話を聞くことができてただただ感激しました。
DM: どのゲストも印象に残っているので、1人だけ選ぶのは非常に酷ですが、私にとって初めてのゲストだったChris Nichollsでしょうか。Kofiが長い時間をかけて築き上げたものを私に託してくれたので、台無しにしないようにと少し緊張していました。
これまでゲストから聞いた話の中で、驚いたことはありますか。
KO: Untold StudiosのリアルタイムスーパーバイザーであるSimon Legrandをゲストに迎えた第13回は、驚きの連続でした。業界の大手スタジオで仕事をしてきたSimonは、当時の業界カルチャーに起因するような困難を経験し、それを乗り越えてきました。一聴の価値ありです!
DM: Christy Anzelmo のキャリアが、ファッションデザインから始まったというのには驚きましたね。また、VFXソフトウェアがプロダクトのデザインやテストといった、VFX以外で使用されていることにも驚きました。Nukeは、車のショールームで仕様を決める際に使用されているといいます。
Kofiさんにお聞きしますが、フリーランスアーティストとして、日々の作業におけるNukeの使用について教えてください。また、いつどのようにNukeを学び始めたのですか。
KO:2013年からNukeを使っていますが、3Dアーティストとして、また現在は主にフリーランスのマッチムーブアーティストとして、かなり限定された用途でNukeを使用しています。ほとんどの場合、必要に応じて基本的な3Dプリコンプを作成したり、プレートからメタデータを取得したり、マッチムーブで使用するために修正したプレートを出力したりするのに使用しています。特に、カメラやオブジェクトのトラッキング用にディテールが不可欠な場合に、ハイパスフィルタリングされたプレートを作成するのに非常に重宝しています。
フリーランスで仕事をするためには、業界に幅広いネットワークを築く必要があると思いますか。
KO: その通りです。フリーランスで仕事をしていることで、役職や専門分野に関係なく多くの優れたアーティストに会うことができますし、スタジオによって異なるクオリティ許容範囲に対応しなければならないので、常に向上心を持って、新しいスキルを身につけなければなりません。これは素晴らしいことですよ。当然ながら、業界のネットワークが広がるという利点もあります。
Danielさん、シニアコンポジターとして、Nukeの使用について教えてください。いつどのようにNukeを学び始めたのですか。
DM: 私は、効率化のために実証済みのワークフロー/テンプレートをうまく組み合わせて使うようにしていますが、ディープコンポジットのような、作業の効率化やクオリティの向上につながる最新技術に常にアクセスできるように、いつもワークフローを最新の状態に保つように心がけています。
以前はAfter Effectsを使って短編映画を制作していたのですが、コンポジティングが大好きで、業界では何が求められているのか、ネットでいろいろと聞いてみたんです。そのアドバイスに従って、Shakeを学んだのですが、使いこなす頃にはAppleがShakeに見切りをつけてしまい、Nukeに移行したのが2009年、Nuke6.0の頃です。今では、コンポジット作業はすべて、特に複雑なショットについてはNukeを使用していますが、コラボレーション環境における作業性の高さはズバ抜けています。Nukeを使わない仕事はポッドキャストくらいです。
Nukeの特に気に入っている機能と、その理由について教えて下さい。
DM: ノードのコピー&ペーストですね。かなり基本的なことですが、ワークフローやアイデアを共有するときに、セットアップをコピーしてメッセージを送れば、スクリプトにペーストして使うことができるので、とても便利です。Nukeを学習しているとき、ショット間のルックを合わせるとき、新しい機能セットを使いこなそうとしているときなど、新しいアイデアを説明するのに役立ちます。CopyCatのような新機能も、アーティスト間でワークフローを共有するという考えをベースにしているところが気に入っています。
VFX業界を志すアーティストに、何かアドバイスはありますか。
DM: インターンのチャンスがあれば、業界への強力なパイプになりますので是非挑戦してください。そうでなければ、自分のリール作成とネットワーク構築ですね。あまり多くのことをやる必要はありません。あれもこれもと欲張って中途半端になってしまうよりも、シンプルでも完璧に仕上げる方がはるかに本格的に見えます。
写真を学ぶこと、新作やシリーズものに限らず多くの映画を観ること、好奇心を持つこと、伝統的な芸術やデザインについて学ぶことなどはコンプの糧となります。専門分野を極めるだけでなく、他の分野についても学んでください。傲慢になったり、すべてを知っているなどと思ってはいけません。1人ではできないからこそ、連携するのです。私たちのポッドキャストで、自分がやりたいことを仕事にしているアーティストの話を聞いて参考にしてみてください!
KO: Danの言う通りですね。特に、希望の業界や職種が定まらないときは、できるだけ多くの職務経験を積むことです。さまざまな経験が未来への扉を開くのです。
アーティストはどのようなチャンスを探るべきでしょうか。ネットワークや人脈作りは重要だと考えますか。
DM: 人脈作りは非常に重要ですが、これは縁故主義とは異なります。あなたのことが好きだから、人間的な繋がりがあるから、という理由で仕事を紹介してくれる人はいません。人脈というものは、仕事ぶりや仕事に対する姿勢を認めてくれる人との繋がりによって形成されるものですから、スキルがあることが前提です。仕事上の繋がりは非常に重要です。手抜きをしたり、不誠実な態度をとったりすれば、信頼を失い悪い評判がついて回ることになります。
パンデミックはコンポジットの仕事にどのような影響を与えましたか。今後、業界の働き方に変化はあると思われますか。
DM: 在宅勤務がすっかり定着しました。週5日通勤したい人などいませんからね。オフィスに行く利点もありますが、在宅勤務の方がワークライフバランスが非常に良く、生産性も高いことが実証されました。
VFX業界の今後のトレンドで、特に期待しているものはありますか。
DM: 機械学習とリアルタイムが大本命であることは間違いないでしょう。ポッドキャストでは、リアルタイムについて多くのアーティストに話を聞くことができましたが、このテクノロジーが大きな変化をもたらすことは明らかです。撮影前の作業は増えていますが、少なくとも大作映画では、ポストプロダクションの作業も減っているようには思えません。リアルタイムの可能性を最大限に引き出すには、より早く意思決定をするように意識改革が必要なのかもしれません。デジタルにより、映画制作者はパイプラインの後々まで変更を加えることができるようになりましたが、これはある意味その対極です。
ポッドキャストや個人的なプロジェクトで、今後の計画は何かありますか。
DM: ポッドキャストをもっと成長させることに加えて、しばらく後回しになっていた短編映画のプロジェクトがあります。現在、プロジェクト資金の調達を行なっているところで、これが集まり次第、撮影を進めていく予定です。ポッドキャストに関しては、もっと幅広い視聴者に楽しんでもらえるように、インタビューと並行して、他のアイデアも検討しているところです。
KO: ダニエルが言う通り、ポッドキャストの内容やクオリティについては常に改善に努めています。ただ、間違いなく言えることは、この番組は常に多様性に富み、必要に応じて技術的なポイントもカバーしながら、インスピレーションや夢を与えるものでありたいということです。
個人的なプロジェクトとしては、2022年末か2023年までに公開したいと思っている短編映画があります。今はまだ制作が始まったばかりの段階ですが、とても面白い作品になりそうで、自分にとってもとてもいい勉強になっています。楽しみにしていてください。