アーティスト スポットライト: Matteo Caruso

Image courtesy of Matteo Caruso

クリエイティブの申し子として生まれたアーティスト

イタリアのローマに近い小さな町フロジノーネを拠点に、アニメーション業界でシニアライティングアーティストとして活躍するMatteo Caruso氏は、幼少頃から芸術的な才能を開花させた。

「ずっと絵描きになりたいと思っていました。物心ついた時からアートや絵を描くことが大好きで、自分と世間を結びつけてくれるのが描くことだったのです。」と話すCaruso氏。

大工である祖父の影響を受けて絵を描き始めたCaruso氏は、その後美術学校でアートを学び、そのクリエイティブな表現活動を新たな次元へと進化させる。

「初めて3Dに触れたのは、美術学校時代のことでした。過去の偉大な画家たちにすっかり夢中になり、自らの内なるものを追い求めていたときに、3Dソフトウェアの話を聞いたのです。最初はあまり積極的ではなく、新しいことに挑戦するのが少し怖い気持ちもあったのですが、その可能性を目にして圧倒されました。」

「それ以来、自分自身をバーチャルなツールを使う職人だと考えています。祖父のような大工とは違うかもしれませんが、"バーチャル職人"であることを誇りに思っています。」

その後Caruso氏は、パリのIllumination Mac GuffやローマのRainbow CGIといったさまざまなスタジオで経験を積み、『SING/シング』、『怪盗グルーの月泥棒』、『44 Cats』などの長編映画やTV番組の制作に携わってきたが、そのクリエイティブなプロセスを絶えずサポートしてきたのが、ルックデベロップメント/ライティングツールのKatanaだ。

Katanaを活用したプロジェクトへのクリエイティブなアプローチ、ローマの美術学校 Artithesiでの教師としての役割、若手アーティストへのアドバイス、VFX業界の未来像等について、Caruso氏に話を聞いた。

Q: 個人的に、またプロとして、特に誇りに思っているプロジェクトとその理由を教えてください。

A: 私のキャリアを決定づける重要なプロジェクトとなったのは『Mila』です。2015年から携わったこのプロジェクトで、私は初めてライティングを担当しました。当時はどちらかといえばゼネラリストで、ライティングはやってみたいなと思う程度でした。

このショートフィルムのディレクターであるCinzia Angelini氏に起用され、フィニッシングチームに配属されてから5年、順調にキャリアを重ねてくることができました。現在はリモートメンバーのライティングスーパーバイザーを務めています。

スキルアップがキャリアのステップアップに繋がり、モチベーションも上がりました。このプロジェクトのおかげで現在のキャリアがあり、今の仕事ができているのもAngelini氏のおかげだと思っています。

『Mila』はあらゆる面で大きな挑戦でした。このプロジェクトは、コロナ禍の10年前に立ち上げられたボランティアプロジェクトで、非常に実験的なリモートパイプラインを介して世界中の350人のアーティストが参加しました。昨年、Cinesiteの協力を得て制作を終えるまで、もっぱらこの作品にかかりきりで、あるショットではワークステーションを起動するのに40分もかかってしまうので、作業中、2ヶ月半もPCをシャットダウンしませんでした。

Mila animated film

Q: Artithesiの教師としてのご自身の役割、ミッションや目標、成果について教えてください。

A: 私はイタリアのさまざまな大学で長年教鞭をとってきましたが、Artithesiでは、教師であると同時に生徒でもあると考えています。

何かを本当に理解しているかどうかを確認する唯一の方法は、誰かに教えてみることです。制作作業の9割は新しいことの習得ですから、習得したことを確認する意味で、人に教えることは非常に役に立ちます。制作現場では同じ作品は一つとしてありませんから、求められる表現を実現するためには、試行錯誤しながら新たな答えを見出すしかありません。ですから学ぶことと教えることは表裏一体なのです。

私がKatanaを学び始めた頃は、良い学習コンテンツを見つけるのはそれほど簡単ではありませんでした。そこで私はこのKatanaコースを作成し、他のアーティストに知識を共有しようと考えました。他のソフトウェアと比較してライティングアーティストがKatanaをどのように受け止め扱うべきかに焦点を当てた内容です。

Katanaは非常に専門的でパワフルなツールですが、特にイタリアのような国では、制作現場での使用は難しいと感じることがあります。そこで、業界で最高峰のソフトウェアであるKatanaをアーティストがわかりやすく学習、習得できるようにしたいと考えました。

Q: VFX業界でこれまでどのような技術トレンドを目にし、またそうしたトレンドはルックデベロップメント/ライティングにおけるプロジェクトへのアプローチにどのような影響を及ぼすと思いますか。

A: 主な技術トレンドとしては、パストレーシング、 GPUレンダリング、バーチャルプロダクションの3つです。それぞれ異なる分野ではありますが、よりハイクオリティな美しい映像表現を追求する技術という点においては同じです。

ツールやソフトウェアは抽象的なアイディアから開発され、新しい技術が登場すると、見たこともない全く新しいものとして捉えがちですが、そうではありません。コンピュータグラフィックスの創世記には、手頃な価格のハードウェアリソースが十分になかったというのが実際のところです。現在ではハードウェア、ソフトウェア双方の技術的進歩と低価格化により、ようやく本来のシネマトグラフィに立ち返ることができるようになりました。テクノロジは、可能な限り現実を再現しようとする方向に進化し続けていくのです。『ライオン・キング』や『マンダロリアン』にそれを見てとることができます。アートをバックグラウンドとする私にとっては、アートとテクノロジの間のギャップが縮まることでより仕事がやりやすくなりますから、これには非常に大きな意味があります。結局のところ、アートがすべてなのです。

3D animated monster and squid

Q: Katanaのご使用について、他のソフトウェアと併用で使用していますか。

A: Katanaは非常にフレキシブルで、私はMaya、Blender、Zbrushなどとの併用で使用しています。新しいルックデブやショット作業を始めるときは、まず、テンプレートの構築をしっかり行います。以前使用したものを再利用することもありますが、どんなプロジェクトでも何か新しいものを加えるようにしています。

Katanaはノードの設定も簡単です。ジオメトリやマテリアル、インスタンス設定も容易に行え、取り込みもスムーズですから準備に時間はかかりません。その後、ライティングはインタラクティブなツールで簡易的に設定します。必要なだけGafferThreeノードをコピーしてバリエーションを作成しながらスペキュラやマテリアルを調整します。

最後にすべてのRenderノードに対してそれぞれカメラを設定し、レンダリングイメージを確認しています。どのようなパイプラインやワークフローであっても、Katanaは迅速かつ安全にデータを取り込むことができます。

Q: Katanaは、クリエイティブなスキルやプロジェクトへのアプローチをどのようにサポートしていますか。

A: Katanaで最も気に入っている点は、アーティストの技術的負荷がほとんどないことです。

例えばLive Renderを実行すればHydraビューア上にイメージを表示することができます。Katanaはスピードに追われるアーティストに非常にアーティスティックなアプローチを提供してくれて、時間ばかり食う、煩わしく古臭いテクニックから開放してくれます。まるで祖父のハンマーのように、手に馴染む使い勝手の良さがありながら、全てを忘れて作業に没頭させてくれる懐の深いツールです。ArnoldやRenderManとのコンビネーションも良好で、ライティングではあたかもキャンバスに絵を描くように、Hydraビューア上でイメージを確認しながら作業を進めることができます。

CG Captain America cat
CG Mad Scientist

Q: ご使用中のKatanaでもっとも気に入っている点、また今後のバージョンに期待する点について教えてください。

A: Katanaのライティングツールの中でも何より気に入っているのは、スナップ機能ですね。使っていてとても楽しいですし、便利です。先ほどの質問に対する答えの続きになりますが、迅速で実験的なワークフローを促進するツールは、ルックデベロップメント/ライティングアーティスト、特にショットライティングアーティストにとっては不可欠です。ショットライティングアーティストの仕事は過小評価されがちですが、然るべきキーライトやカラーキーがあっても、撮影監督やディレクターのビジョンを正しく解釈できるショットアーティストがいなければ、フレームの一貫性は保てません。

Katana 4では新たなライティングツールが搭載され、あらゆるフレームでベストなライティングを簡単に設定できます。イメージにいかに深みを与え、ストーリーにどう貢献するか、自由に試行錯誤を重ねることができます。Katanaは何より優先されるストーリーを最大限に表現するうえで最適なツールです。

Hydraビューアも素晴らしいですね。複数のフローティングパネルを開いてGafferThreeノードを探す必要はなくなりました。ビューポートを数回クリックするだけで、新しいライトを追加したり、カラーやエクスポージャを変更したり、手早く思い通りにライトを操作することができます。

将来的には、全ての主要レンダリングエンジンとのインテグレーションを強化して、AOV設定やドキュメントの充実、MariやSubstanceと簡単かつダイレクトに連携できるように、またACESプロファイルを集めたタブの追加などがあると嬉しいですね。

Q: Katanaの使用経験がないアーティストは、Katanaのどのような点に驚くと思いますか。

A: Katana 4には、ライティングを楽しくしてくれるような機能やツールがたくさんありますが、その醍醐味は外面的なものではなく、内在的なロジックだと思います。Katanaのベースとなるロジックは壮大で、ノードを使えば何でも簡単に再現することができ、ワークフローに制限はありません。是非一般的なワークステーションで使ってみてほしいですね。ロジックの拡張性、必要とされるハードウェアの適応性に驚くはずです。

CG Angry Bird

Q: コロナ禍によりリモートワークへの大規模な移行が必然的に行われるなか、Katanaはこうしたワークフローのシフトをどのようにサポートしていますか。

A: 新型コロナウィルスは業界にとって間違いなく大きな試練です。私もリモートワークが増えましたが、残念ながら最近はKatanaのパイプラインでライティングの仕事をすることがなく、非常に不便を感じています。特に実際に会うことのできないアーティストとリモートで仕事を始めなければならない場合には、堅牢で一貫性を保つことができるKatanaこそ使用されるべきツールです。作品の背景を知らない状態でプロダクションに参加するアーティストもいますが、しっかりとした継承システムを持つKatanaであれば間違いを起こすことがありません。

Q: 他のツールにはない、KatanaがLook Developmentにもたらす最大のメリットは何でしょうか。

A: 個人的には、異なるカメラアングルのイメージやアセットのバリエーションを同時にレンダリングできることが最大のメリットだと思います。Graph State Variablesの設定を反映できるので手早くバリエーションを出力可能ですし、ほんの数クリックで柔軟なワークフローを実現できます。

Q: ルックデベロップメント/ライティングにKatanaの使用を検討している若手アーティストに、何かアドバイスはありますか。

A: Katanaを他の3Dソフトウェアと同じように考えてはいけません、まさにシャープな日本刀のようなツールですので扱い方を間違わないようにすることです。どのように動作するのか理解するには、まずシンプルなテンプレートや基本的なシーンから始めてみましょう。

Katanaのパワーを活かすにはアセットの命名規則が重要です。スマートで効率的に作業を進められるような準備が必要です。

Quote from Matteo Caruso, Senior Lighter

Q: VFX業界、特にルックデベロップメント/ライティングに興味を持っているアーティストに、何かアドバイスはありますか。どのようなチャンスを模索すべきでしょうか。

A: 単にソフトウェアだけに注目していてはいけません。どのソフトウェアがベストかという問題ではなく、目的を達成するために大事なのは「ロジック」であり、作品に応じて求められるものを正しく理解しアウトプットすることが重要なのです。優れたルックデベロップメント/ライティングアーティストになりたいのであれば、シネマトグラフィの目をしっかりと養うことです。Roger DeakinsやLawrence Sher、Vittorio Storaroといった巨匠の作品をよく見て研究し、自分のものにしてください。

あらゆるチャンスを模索する必要がありますが、特に最初のうちは、学ぶことが不可欠です。チャンスがあれば、自分よりも優秀で経験豊富なアーティストと一緒に仕事をしたり、思い入れのあるプロジェクトで仕事をしたりすることは大きな成長につながります。

Q: ルックデベロップメント/ライティングの今後の展望とKatanaの活用について、どのようにお考えですか。

A: 現在、ライティングは新しい局面を迎えています。背景セットのバーチャル化はすでに実現しており、VFXやアニメーションを含むあらゆる制作で採用されるでしょう。今日のテクノロジーでできることは、従来の手法を利用しながら新しいツールを使用するCG初期の頃を思い起こさせます。シネマトグラフィも同様にテクノロジの進歩でより簡単に、より効率的に実現可能になるでしょう。

新型コロナウィルスで世界が大きく変化し、多くのスタジオが苦境に陥っています。今後、リモートワークへの移行を促すような視点でソフトウェア開発が行われることを期待したいですね。コロナ後の「通常」の世界では、色々な意味でこれまでとは異なる状況が予想されます。リモートワークは、大きなメインビルの必要ない、自宅やコワーキングスペースで作業を行う世界中のアーティストを結んだ水平型スタジオを実現する素晴らしいきっかけになるかもしれません。まだ始まったばかりですが、これこそが現代の真の革命ではないでしょうか。

Katanaはバーチャルツールと新しいマネージメントソフトを統合してさらに発展できると思います。コミュニケーションはどのような現場においても常に重要なのですが、日々の課題やアイディアの交換に複数のチャットツールが利用されており、アイディアを実現するためのメインツールとの連携が取りにくいのが現状です。例えばKatanaのテンプレートから直接リーダーやスーパーバイザー、他のアーティストと会話ができるシステムを統合すべきだと考えています。他にもバーチャルチャットを通じて別のアーティストやテクニシャンと接続できたり、ノードクリックで接続できたりすると面白いと思います。

その他、3DペイントツールやMariのUVインターフェース、Nukeとの連携が強化されればさらに嬉しいですね。個人的にはワークフローやプロセスが将来的によりシンプルになることを期待しています。USDは素晴らしい一歩だと思いますが、別の作業をするためにソフトウェアを変えなければならないのは非常に面倒ですし、集中力が途切れてしまいます。NukeのツールをKatanaでも使えたらいいのにと思いますし、Katanaでペイントツールを使ってSSSマップをレタッチできれば非常に便利ですよね。Katanaは柔軟性に優れた素晴らしいツールであり、こうした新しいニーズに対応できる大きな可能性を秘めていると思います。

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