Cinesiteが手掛けた『トゥルー・ディテクティブ ナイト・カントリー』のVFX制作

True Detective: Night Country @HBO all rights reserved. VFX by Cinesite

エミー賞ノミネートのCGシークエンスの制作。

HBOのアンソロジーシリーズ第4作『トゥルー・ディテクティブ ナイト・カントリー』で、Cinesiteは不気味なクリーチャーやアラスカの遠隔地エニスを描写し、シリーズ全体に不気味な雰囲気を見事に演出。その成果が認められ、今年のエミー賞にノミネートされた。チームはNukeでUSDを活用し、スタジオのライティングパイプラインとより緊密に統合することで、この非常に複雑なプロジェクトに取り組んだ。

Cinesiteが主要VFXベンダーとして、本作特有のエフェクトをどのように実現したのかについて、CGスーパーバイザーのManu Reyes氏とコンポジットスーパーバイザーのSabine Janetzka氏に話を聞いた。

Jodie Foster and Kali Reis as Detectives Liz Danvers and Evangeline Navarro in True Detective: Night Country

CGカリブーの群れに命を吹き込む

全6エピソード中5エピソードにわたり、100人から多い時で160人ほどのチームが133ショットを担当した。困難を極めたのは作品冒頭のシーンだ。シリーズ全体の雰囲気を決めるオープニングでは、不穏な空気の中で1人のハンターがカリブーの群れを観察している。不意に何かに驚き怯え出したカリブーたちは、夕日の中、謎めいた形で氷の崖から身を投げる。

A herd of CG caribou in True Detective: Night Country

チームはドラマの冒頭シーンを作るプレッシャーに加え、40頭以上のフォトリアルなカリブーを制作するという課題にも直面していた。「モンスターを作るよりはるかに難しいんです」とReyes氏は言う。「私たちの脳は本物の動物を見慣れているため、少しでも不完全だとすぐに目立ってしまい、視聴者は物語に集中できなくなってしまうんです」。

A galloping herd of CG caribou in True Detective: Night Country

チームはカリブーを制作するにあたり、暴走する動物の群れや馬がカメラの上を飛び越える映像、動物園の飼育員との対話、さらにはトナカイの写真など、さまざまなリファレンスを活用した。CGアーティストはカリブーの走る姿や跳ぶ動きをリアルに表現するため、筋肉組織の下全体にリグを入れ、さらに、カリブーの白い息や、動きに伴って舞い上がる雪のエフェクト表現を加えた。コンポジットチームは、これらの異なる要素を調和させて全体の映像を仕上げる必要があった。

A herd of CG caribou galloping and jumping in True Detective: Night Country

カリブーのリアルなルックを実現することは、このシークエンスの成功に不可欠であり、リファレンス撮影は、ほんのわずかなディテールを正しく表現する上で重要な役割を果たした。

「特に重要な目のクローズアップショットでは、細部をさらに際立たせるために、RayRenderノードと目のジオメトリを組み合わせてディテールを追加しました」とJanetzka氏は説明する。

Close-up of CG caribou eye in True Detective: Night Country

新しいカスタムUSDワークフロー

プロジェクトの規模に対応するため、Cinesiteロンドンでは、『トゥルー・ディテクティブ ナイト・カントリー』で初めて、新しいカスタムUSDワークフローを使用した。これは、新しいUSDアーキテクチャにより、チームがNukeでUSDと自社のカスタムツールを併用した初めてのケースとなった。

Universal Scene Description (USD)は、Pixarによって開発されたオープンソースのファイルフォーマットで、パイプラインの統一化を図るために多くのスタジオが採用している。このユニバーサル言語は、異なるアプリケーション間での3Dアセットの管理、共有、編集を簡素化する。

USDを使うことで、パイプライン内のUSD対応ツール間でファイルを自由に共有でき、異なるフォーマットに変換せずにNukeにデータを取り込むことが可能だ。これにより、アーティスト同士のリアルタイムでのコラボレーションが容易になり、パイプライン全体の作業が効率化される。

Close-up of a CG caribou in True Detective: Night Country

「新しいカスタムUSDワークフローのおかげで、データの読み込みが従来のジオメトリを使った方法に比べて4分の1の時間で済むようになりました」とReyes氏は言う。

USDの導入により、チームは新しい技術のトレーニングを受ける必要があったが、これはすでに実を結んでおり、新しいワークフローはその後のプロジェクトでも活用されている。さらに、今後リリースされるNukeバージョンでのUSD対応拡大により、CinesiteはNukeネイティブのワークフローをより活用できるようになる。

アラスカの永久凍土の再現

カリブーの制作に加え、オープニングシーンで登場するアラスカの永久凍土「夜の国」を描くことも大きな課題だった。チームは、アイスランドの氷河で撮影された限られた数のプレートをもとに、アラスカの特有の厳しい景観を再現しなければならなかった。ほぼすべてCGで作り上げられたこのシークエンスでは、暮れ始めから日没に至るまでの影が徐々に長くなっていく様子が描かれ、これは番組全体のメタファーにもなっている。

The permanently frozen Alaskan landscape in True Detective: Night Country

この氷に覆われた環境を作り出すため、チームはNukeでスカイドームを構築し、シーン全体の光、天気、雲の変化を正確にコントロールできるようにした。プロジェクトが進行するにつれて、ストーリーを補完するための新しい機能を次々と追加していった。Cinesiteのアセット管理システムはNukeと統合されており、変更があった場合、Nukeのテンプレートスクリプト内でアセットが自動的に更新される。これにより、アーティストはショットのイテレーションに集中でき、作業効率が大幅に向上した。

「私たちはNukeのテンプレートを多用しています」とReyes氏は言う。「パブリッシュ時に最新のレンダリングを自動で置き換えるテンプレートがあり、これはCinesiteのワークフローに欠かせません」。

プロジェクトでは、イテレーションごとにレンダリングを自動更新するカスタムノードなど、Nukeのカスタムノードが多数使用された。

Nukeによるライティング調整 

ライティングが特に複雑なシーンでは、NukeとCinesiteのライティングパイプラインを緊密に連携させたことで、作業効率が大幅に向上した。つまり、ライティングチームは、さまざまなエレメントやパス、ライトグループごとにレンダリングし、Nukeで個々のライトを確認しながら調整を行うことができた。そしてその変更は、ボタンをクリックするだけで、メインのライティングツールに反映させることが可能だ。

「以前はアーティストがセットアップを調整した後、手作業で合わせる必要がありました」とReyes氏は説明する。「しかし、今ではNukeからすべてが自動化されているため、次のイテレーションに向けてCGリファレンスにより正確なライティングを適用でき、時間を大幅に節約できます。これは私たちにとって画期的なことでした」。

CG polar bear under streetlights of Ennis Town in True Detective: Night Country

雪景色の構築

オープニングシーンの環境を構築するために、チームはNuke内でジオメトリを使用してすべてのDMP(デジタルマットペインティング)を投影し、ハンターの実写プレートをカスタム環境にブレンドし直した。一部のプレートには少量の雪が含まれていたが、これを乗算して、最終ショットでは既存の雪と統合する必要があった。

Building layers of snow with Nuke's Particle system in True Detective: Night Country
Nukeのパーティクルシステムを使用して、チームはいくつかのパーティクルセットアップを構築した。「雪を作成するために、環境からのベクターポイントをパーティクルのドライバーとして利用しました」とJanetzka氏は話す。「さらに、ポジションベースのノイズパスをパーティクルと組み合わせて使用することで、雪が太陽に照らされて輝くエフェクトも作成しました」。

北極のリアルな寒さを表現するため、シリーズ全体にわたって息が見えるような視覚効果をデジタルで加えた。チームはAudioReadノードを使用してカーブを生成し、キャラクターの呼吸や会話のタイミングを視覚的に確認できるシンプルかつ効果的なセットアップを構築した。

Building layers of snow with Nuke's Particle system in True Detective: Night Country

架空の町エニスの構築

また、このプロジェクトでは、アイスランドで撮影されたプレートをもとに、架空の町エニスを作り上げる必要があった。トラッキングデータを利用してプロキシジオメトリを作成し、町の郊外にある凍った海や山脈など、シーンの拡張も多数行われた。また、スキーリフトや木、撮影クルーなどの不要な要素を取り除くクリーンアップ作業も行う必要があった。

Building layers of snow with Nuke's Particle system in True Detective: Night Country

CGのホッキョクグマ

『トゥルー・ディテクティブ ナイト・カントリー』でCinesiteが手掛けたもう一つの重要なクリエーションは、不吉な兆しとして描かれている、主人公たちの前に現れる威圧感のあるCGのホッキョクグマだ。このクマに求められたのは、痩せ細りながらもなお力強く脅威的であり、フワフワしたり可愛らしく見えないようにすることだった。これを実現するため、チームはクマの失った片目に特徴的な傷跡を加え、さらに筋肉の損傷を描いて顔が少し垂れ下がって見えるようにするなど、体や顔に非対称や角ばった形状を取り入れた。

Closeup of CG polar bear in True Detective: Night Country

撮影現場でのライティングやサイズ感、俳優の視線の調整に使われたリアルなぬいぐるみの頭が、VFXチームのオフィスにも持ち込まれ、初期デザインの参考にされた。CGチームの技術力を証明するかのように、監督はホッキョクグマのクローズアップを見て感銘を受け、そのシーンをより長く、クマの顔に焦点を当てたものにすることに決めた。

CG polar bear looking into car window in True Detective: Night Country

プロジェクトのスケールの大きさを物語るように、第4話のクマのシーンは特にCGが多用され、15TBという途方もないデータ量になった。さらに、クマのクローズアップのレンダリングには1フレームあたり12時間を要した。

「Nukeは私たちのレビュープロセスにおいて重要な役割を担っています」とReyes氏。「アーティストに新しいバージョンやアイデアを提示してもらう際には、必ずNukeで簡易コンプを作成してもらっています」。


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